ふと意識が飛び妄想にひたる。
藁葺きの屋根の小さな小屋の中に乙女の姿のコウス様と二人きり向き合っている。
ともし火の下のコウス様はおろしたてのような清清しい純白の衣(きぬ)と赤い裳をまとったあでやかな姫君だった。
お行儀よく両膝を折って座っていらしゃる。
ほっそりした白い両手を指の所で交差させ膝の上においていらした。
「ワ……ワタクシ……」
とか細い声で言いかけたが、
すぐに口を閉じられた。
しばらく頬に長い睫毛の影を落としながら、
お下げについた髪飾りをもてあそんでいらしたが、
ふと思い切ったような顔をして、
面(おもて)を上げられた。
うふ……と恥ずかしそうにお笑いになりながら、
「ご覧のとおりよ! 実はワタクシ女でしたの!」
とおっしゃた後、
私のわき腹をか細い手でつかみ、
目を瞑り、
私の胸に玉のようになめらかな頬をこすりつけた。
私がたじろいていると、
コウス様はこんなことをおっしゃった。
自分は結婚相手を選ぶにあたって財産や容貌よりも人柄に重きをおきたいと考えていた。
しかし世の男は皆、
若く美しい女の自分には優しい。
いったいだれが本当に暖かい心の持ち主なのかわからない。
そこで男のふりをして男同士としてつきあいながら、
夫にするに値する男を探していらしたのだという。
「今まで我侭言ったり、
散々振り回したりして本当にごめんなさい。
でも、
人の本性がわかるのはむしろ相手にそういうことをされた時だというでしょう?
あれはすべて、
あなたが本当にワタクシの夫にふさわしいか見極めるためにしたことなの」
そしてあなたは合格よ! と水を含んだような大きな目で私をじっと見つめられた。