『クマソタケルの館にて』第4章【フリー朗読(声劇)台本として利用可】

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私はマイヒコに声をかけ、

あの……何があったというのでしょうか? と尋ねると、
マイヒコは

「何があったですって!?
貴方はそれも知らずに、
ここに来たと言うのですか?
昨晩クマソタケル様が二人揃って何者かに殺されていて、
それ以来大混乱ですよ!
兵士達も召使達もまじめに仕事をしなくなって、
屋敷から財宝を盗み出して、
蔵から穀物を略奪しまくっているのです。
外からやってきてやりたいほうだいやっている人も多いようだけど、
貴方もその一人なのではないのですか?
ところで貴方どこかで見た顔のような……」

マイヒコは私を穴の開くほど見つめた後、
最後に

「ま、
きっと他人の空似なんでしょうね」

その後、
コウス様を指差して

「あ!
君!
昨日女の格好をしてクマソタケル様にずっとお酌をしていたでしょう!?
怪しいと思っていたんだ!
お米一俵の為にわざわざ女装してやってくるとも思えないし、
何が目的だったというのです!?
まさか君、
昨晩の事件に何か関係あるんじゃ……」

と一騒ぎした所で猛獣の大群のような威圧感のある足音が近づいてきて、
砂埃がたった。

立ち並ぶ米蔵の影から、
黥面(げいめん)に螺旋状の癖のある髭の、
屈強そうなクマソの武人達が鮫(さめ)の大群の如く現れた。

武人達の登場とともに、
さっきまで、

「これも持ってけ! どうせ皆ただなんだから」「でも父ちゃんこれ以上背負ったら、
俺の脚が折れちゃうよ!」とか「これは俺のだ!」「なんだ俺が先に見つけたんだぞ! この泥棒!」「盗人(ぬすっと)なのはお前だっておんなじじゃないか!」とかいう言葉が飛び交っていたのが急に静かになった。

あたりの人々は荷物から手を離して、
土下座をした。

中には、
略奪品をほっぽいて、
そろりそろりとカタツムリのように逃げていくものもいる。

クマソの武人達のなかには、
ついこの間、
私達と刃を交えたばかりの、
見覚えのある顔もある。

私とコウス様は武人達の行列の後をつけていった。

武人達は昨日宴の開かれた桧皮葺(ひわだぶき)の高床式の大広間へと登る階段を上がっていった。

私たちは近くの蔵から適当にそれらしい鎧を見つくろうと、
彼らの護衛の兵士を真似て変装し、
階段を上る。

柱の影から大広間を覗く。

クマソの武人たちは広々とした部屋の端から端まで長い長い二つの列を作り、
向き合って座っていた。

喧々諤々の論争をしている。

どうやら彼らはクマソタケルが亡くなった今、
クマソタケルの領地や権益をどうやって分け合うかの相談をしているらしい。

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