話の風向きがクマソタケルの暗殺者に向かった。
「クマソを狙う外国勢力とのつながりのある者の仕業かと思われます。
早く探し出し、
拷問にかけ、
黒幕をつきとめるべきです。
その勢力はいまにもクマソに襲い掛かってくるかもしれません。
一番怪しいのはこの前負かしたばかりの、
ヤマトですが、
それだと単純すぎるので、
じつはまったく別の国の可能性も高いです……」
武人達は皆向き合って真剣な面持ちで話し合っている。
色が黒く、
げじげじまゆげで、
唇がぶあつく、
手足も顔も刺青だらけだった。
しかしその野蛮の趣のある顔の下には様々な思惑が潜んでいそうだった。
クマソタケルが現れクマソの王になるまで、
クマソにはクマソ全体を統べる権力者はいなかったそうだ。
それまで、
クマソは親族単位ごとの無数の小集団が争ったり和平を結んだりしていたという。
ということは今後この中の誰かがクマソタケルに取って代わるかもしれない。
ここに集まった武人達の中には「我こそは!」と思っている者もいるに違いない。
当初は私の目には武人達は良く似て見え、
区別がつかなかった。
しかし、
しだいに一塊(ひとかたまり)ごとに髪型や装飾品、
顔の刺青の模様や色が違うことに気がついた。
おそらく氏族ごとに身なりが違うのだろう。
私達のいる場所からは、
二つの氏族集団から来たらしき、
武人達が語り合っている様子がよく観察できた。
向こう側の武人達は皆、
髪を下げみずらにして、
両の耳たぶにメノウの耳飾をしている。
顔の刺青は目を中心に紺色の輪を何十にも描いていた。
こちら側の武人達は、
両耳の下でお下げに結い、
左耳に二つの青いわっかをぶら下げていた。
刺青は頬の辺りに赤い直線を何本も走らせていた。
それぞれ集団の一番威厳のありそうな武人、
二人が対面し語り合っている。
和やかに少し話した後、
急に瞳を怒らせて語調が荒くなる。
そうかと思うと、
また表情が和らいだりする。
紺の刺青の武人が
お揃いの装束、髪型の武人の耳元に
髭にうずもれた口元を近づけ、
なにやら囁いている。
赤の刺青の武人も同族のものと顔を見合わせ、
意味ありげにうなづいている。
謀略うずまく……という言葉がぴったりの雰囲気の中に、
「くせものをとらえました!」
という、
よく通る気持ちのよい声が駆け巡った。
よどんだ空気を払うかのような若々しい、
男の声だった。
木の手かせ足かせをはめられて連れてこられたのは、
昨晩、
私の仕事仲間だったあの娘だった。
「こいつめが女に化けて、
クマソタケルを殺したのです。
こいつとクマソタケルが共に座を外すのを見たものが何人もいます」