「違います!
私はただの村娘です!
だいたい私は女に化けているんじゃなくて本当に女です!
ああ!
お米一俵欲しくて来ただけなのになんでこんなことに!」
クマソの武人たちは一斉に娘を指差して、
獣の鳴き声のような音をだして、
娘を非難している。
娘はカブトムシのような両手で顔を覆って嘆いている。
すぐ隣でうめき声がした。
「ちがう!
クマソタケルをやったのは俺だ!」
今にも武人達の間に出て行って名乗りを上げようとなさるコウス様だったが、
わたしは左手をコウス様の口に入れて、
右足をコウス様の脚に釣り針のようにひっかけて、
必死で制止した。
クマソの武人達の娘を攻めたてる声が聞こえる。
「おまえのようなごつい女がいるわけないではないか!」
「はやく吐け!
誰がお前にクマソタケル兄弟を殺すように命じたのだ!?」
しばらく続いた野次のおかげでコウス様が私に抵抗して、
手足を床に打ち付ける音や、
「はなせ! クマソタケルをやったのはこの俺だ」という声がかき消されたのは幸いだった。
野次がはたとやんだ。
目をこらすと娘がすっぱだかになっている。
色は黒いけれど、
まるでこの地で信仰されている地母神のようなふくよかないい体つきだった。
娘の足元には脱いだ着物や腰巻が小山をつくっていた。
「その娘を放しなさい!」
先の若者の声と好対照の成熟しきった男の声が大広間に響きわたった。
「クマソタケルを殺したのは私じゃ!」
声の主は昨晩、
私の為にマイヒコを呼んでくれたあの翁(おきな)だった。
少年のおつきが二人いるだけで、
護衛の武装の男は一人もつれていない。
翁(おきな)が太刀に手をかけた。
武人達は自らの刀柄に手を添えたり、
弓を構え矢先を翁(おきな)に向けた。
翁(おきな)は皆さん勘違いをなさるな……とゆっくりと大きなしぐさで、
左手で太刀の唾の下を握った。
太刀を鞘ごと腰帯から外す。
膝を落すと、
床の上を滑らせるように太刀を投げた。
太刀は翁(おきな)の足元から身の丈の二倍ほど離れた所で止まった。
丸腰の翁(おきな)は堂々とした声で、
「私はかねてからクマソタケルの暴政に苦しむ民を見て、
早くなんとかせねばと思っていた。
それで自分の命はかえりみずにこのたびこのようなことをした。
皆さん、
私を殺したければ殺してよい!
どうせ老い先短いのだから。
しかし……」