あらすじ
昭和の片田舎。
地主の三男坊の三郎は、
これといったとりえのない少年だ。
勉強も、
運動も並以下。
気が弱くて弟たちにも馬鹿にされている。
そんな三郎には一つだけ不思議な力があった。
生まれてくる子供が月から降りてくるのが見えるのだ。
すぐ読み終わります。
一日の疲れが癒されるようなのんびりとした作品です。
昭和40年代、50年代ぐらいの雰囲気です。
本文
月灯りの下、
三郎は草むらに寝そべっていた。
満月が空と言う名の温泉につかっているかのように、
気持ちよく浮かんでいる。
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じっと月面を見つめていると、
月の表面が泡立ち始る。
いつものように月から赤ちゃんが降って来る。
赤ちゃん達はひとかたまりになって
シャボン玉のような金色に光る玉に囲まれている。
金の玉は丘の下に降りていく。
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丘の下は貧しい人の住む地域だった。
三郎にとってそれは良く見慣れた景色だった。
彼にとって子供の頃から赤ちゃんは月から降りてくるものだ。
赤ちゃんの玉は丘の下にばかりいくのではない。
あの家、
この家、
三郎の知っている家にも降りていくこともある。
それからしばらくすると、
その家に赤ちゃんが生まれたという話を聞くのだ。
四郎、
五郎が生まれたときも同じだった。
三郎は弟たちが、
月から自分の家の屋根に入って行くのを見ている。
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今、
太郎兄さんと姉さんは男の子が欲しくてしょうがない。
毎日医者を呼んだり、
お坊さんにお祈りしてもらったりして大騒ぎである。
それでもなかなか子供が生まれない。
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爽やかな夜風が腹の上を通り抜けて行く。
つんつんとした草の先が手の甲や、
首や、
頬を刺激する。
目の中がもやもやと光っている。
あくびしたときにでた涙の為に、
月の光が目の中で乱反射しているのだ。
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また月からごそりとひとかたまりの金銀の玉が降ってきた。
その中の一つが蛍のように点滅しながら
ゆっくりと兄さんと姉さんが眠る母屋に向かって行く。
玉は銀色だ。
これは女の子だ。
金色のシャボン玉は男の子、
銀色のシャボン玉は女の子だ。
これは三郎が物心付いた頃から変わっていない。
「だめだめ兄さん達が欲しいのは男の子!」
三郎は夢うつつにあせる。
玉はくるりと方向を変える。
銀の玉はそろそろと丘の下に広がる貧しい人の住む地域に下っていった。
三郎ははっとした。
もし太郎兄さんと姉さんは女の子が生まれてもかわいがっだろう。
あの子は地主のお嬢様に生まれるはずだった。
三郎のせいで貧しい人の娘になったのだ。
あの女の赤ちゃんにすまないことをしたと思った。