三郎の傍らには十五個ほどの金銀の玉が残っていた。
彼らと共に降りていくと三郎のよく知った景色だった。
右手は三郎の住む屋敷だ。
左手は丘の下に広がる無数の家々と電線だ。
右手は一つ一つの建物が大きい。
間がたっぷり取られていて、
この遅い時間には人気が無い。
左手は小さな家々が無数に隙間なく建てられている。
ほとんどの家は三郎の部屋のほうが大きいほどだ。
真夜中近いのに人の気配や活気が十分に感じられる。
三郎ははっきりと思った。
こんな辛気臭い屋敷なんかより
にぎやかでたくさん人がいる丘の下のほうがずっと良い。
三郎はまだ貧富の差も知らない幼い頃、
丘の下に憧れていたことを思い出した。
にぎやかさに惹かれるように、
仲間と共に丘の下へ降りていこうとした時だった。
急に大きな音が耳に飛び込んできた。
子供向けのカセットテープの曲だ。
近頃太郎兄さんと姉さんの寝室の窓辺でずっと流している曲である。
ちょっとうるさいなと思っているとまもなく止んだ。
しんとした中に金属がこすれるような音が始まった。
その中に、
か細い子供の声が響く。
「お兄ちゃん。
お兄ちゃん。
一緒に遊びにいこうよ。
あっちに玩具がいっぱいあるよ」
「でもあっちはあまり他の子がいなくて寂しそうだよ」
「見てよ。
電車に自動車に飛行機もいっぱいあるよ。
他の子達はいないから全部僕達のだよ。
それに楽しそうな歌も聞こえるよ」
「俺は嫌だよ。
玩具が沢山あっても二人だけじゃつまんない。
あっちのほうが友達が沢山いて楽しそうだから俺はあっちに行きたい」
また三郎の耳に大音量のカセットテープの歌が飛び込んできた。
明るく勇ましい調子の行進曲である。
小学生の時に一人で暗い道を歩く時、
夜中便所に行く時、
よく歌った曲だった。
歌うと自分が強くなった気がして勇気がわいたものだ。
「じゃあ僕は一人で行くから、
お兄ちゃんはあっちに行きなよ。
近くだから歩けるようになったらまた遊ぼうね」
一つの金の玉は他の金銀の玉と一緒にそろそろと丘の下に降りていった。
もう一つの金の玉はピンポン玉のように大きくバウンドした。
行進曲の流れる中、
三郎の家の屋根めがけて飛び込んでいった。
「可愛いお姉さん!」
最後に、
三郎はそんな鈴のような声を聞いた。