「皆と一緒に勉強をしていた祝英台君は、
実は女の子だったんだ」
書生達がどよめいた。
「この度、
彼は、
あ間違えた。
彼女は、
上虞(じょうぐ)のご実家に戻って花嫁修業をすることにされたそうだ」
柔らかな風に乗って薔薇の匂いが教室の中に漂う。
教室の外の海棠の花びらが
柳老師の鏡のような髭に舞い降りた。
「祝君は女の子なのにあんなに優秀なんだ。
みなさんは男の子なのだから、
祝君に負けないよう頑張るように」
窓の外の八重桜は花火のように咲き乱れている。
机の上の陽が当たってちらちらとした所に、
桃色の影が落ちていた。
池をツツジとサツキが囲んでいた。
梅色、桜色、八重桜色、
桃色、紫色、すみれ色が順番に植えられている。
低く生えた桃の木が水面に映っている。
重なるように浮かぶ濃い緑の、丸い葉の上で、
ぽつぽつと真っ赤な睡蓮が花開いていた。
合間を赤と黒の鯉がすらすらと泳いでいる。
群生した水仙が鯉をのぞきこんでいた。
水辺の鈴蘭が強い香りを飛ばし、
僕の鼻の穴をしっとりと触る。
窓際の仲良く並んだ二輪の芍薬は、
すっかり打ち解けた様子で
薄衣のような幾重にも重なる花びらをすべて開いていた。
淡い黄色の花芯を露にし、
喋々喃々(ちょうちょうなんなん)と語り合っている。
つがいの青アゲハが教室に入ってきた。
二匹は手をつないで踊るようにぴったりとくっついて、
ころころと回りながら縦横に宙を舞っている。
翌朝僕は鳥になって上虞(じょうぐ)へと飛んでいった。
【終わり】