はじめに
フリー朗読(声劇)台本として利用可能な小説です。
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あらすじ
結婚願望200%のアラサ―OL、 春菜が出会った王子様、 隆さん!
超イケメンの若手社長。
一見申し分ない相手だけど……
人間が一番怖い((( ;゚Д゚))) そんなショートショートです。
本文
スマートフォンの待ちうけ画面がぱっと変わって、
ごめん、 後五分で駅につくから、 というラインのメッセージが現れた。
お見合いパーティーで知り合った隆さんとは今日で四回目のデートである。
彼が遅れるなんて珍しいわ、
と思いながら返信をする。
スマートフォンはピンクのハートが背景の花嫁花婿に扮したテディベアの待ち受け画面に戻り、
春菜の口元をゆるませた。
八重洲北口を津波のように行きかう人々の中にはカップルが多い。
五分きっかりで隆さんが現れた。
すらりと伸びた肢体を、
色の抜けたジーンズとライトグレーのカーディガンに包み、
淡いピンク色のショールを首に巻いている。
まだ暗い色の服装が多い中、
一足早く、
春らしい装いで、
人目もはばからず手を高く上げ振っている。
木漏れ日のような微笑みで、
あたりの空気を春色に変えながら、
大股で近づいてきた。
春菜が見とれている間に隆さんは目の前に来て、
春菜の頭上高くにある、
小さな頭を下に向ける。
「春菜ちゃんごめんね。
途中で人身事故があって、
早く出たのにちょっと遅れちゃったよ。
まったく死ぬならもっと人に迷惑がかからないように、
一人で勝手に死んで欲しいよね……」
と何か遅れた理由を説明していたが、
春菜は隆さんの優雅に開いては閉じる形の良い唇を、
うっとりと眺めていたので、
話の中身なんて、
ろくに聞いていなかった。
三十歳目前に学生時代からの彼氏に振られ、
必死で婚活をして、
お菓子屋の経営をしている隆さんにめぐりあった。
今では前の彼には振られて良かったと思っているほどである。
予約しておいてくれたという駅前のノルーウェー料理のレストランに入ると、
バジルの香りが漂ってきた。
壁は若草色で、
家具は白木である。
春菜はあまり広くない店内をひとしきり見回した後、
隆さんを振り返る。
長い睫毛を伏せた憂いがちな目が魅力的ではあったものの、
何だか今までのデートの時のような元気がない。
どうしたの? と聞くと、
ちょっとね仕事でね……
とせつなそうに長いため息をついたきり、
具体的なことは教えてくれない。
やはり社長さんの彼は、
雇われている立場の春菜より難しい問題も多いのだろうか?