はじめに
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あらすじ
ある原始的な生活をしている部族の土地では宝石が採れる。
ヨーロッパから来たカルロスとミゲル。
兄弟の商人は宝石鉱山の採掘権が欲しくて、 族長の機嫌を取るために沢山の贈り物を持って頻繁にたずねて行く。
カルロスは近年彼の助手になったものの、 まるで仕事をやる気の無い弟ミゲルにいらいらしている。
そんなとき族長がミゲルを気に入り自分の娘の婿にしようと言い出す。
族長と親戚になれば採掘権がもらえるに違いないと思ったカルロスは、 ミゲルの意見も聞かずに勝手に縁談をすすめてしまう。
本文
「すべてとても珍しい物ばかり私は大変満足だ」
族長は目を細めて笑った。
「この子も贈り物をとても気に入ったようだ」
と族長が傍らにちょこんと座っていた、
末の若様の頭を撫でる。
若様はにこにこしながら、
先程彼に送った毛織物のマントを広げてみせた。
カルロスはでは
「これが最後の贈り物になりますが」、
と麻袋から籠を取り出した。
「レオンよ出ておいで」
そう言いながら、籠の前についていた戸を開ける
籠を少し傾けると「ニャー」という鳴き声とともに黄金色の毛の長い猫が現れた。
首には紅茶で毛皮の色に染めた、
襞襟をつけている。
族長は「これは何だ?まるでガラスのような目をしている」
と猫をじっと見つめた。
カルロスは猫を抱きかかえ良い子だ良い子だと背中を撫でてやると落ち着いてきた様子だったので、
猫を抱いたまま族長の前迄膝で這って進み出ると猫を族長に手渡す。
「とても柔らかで気持ちの良い子ですよ。
どうぞ族長も抱いてみてください」
族長は猫を受け取り、膝に置き、猫の背中を撫でた。
「こんな獣は見たことが無い随分柔らかいな」
ミゲルがカルロスに耳打ちをする。
「兄さん、猫に襞襟なんかつけてどうしようというんだ?」
カルロスがミゲルの耳元でささやく。
「ちょっとカリカチュア化したライオンみたいだろう。
このあたりにはこんな毛の長い猫なんかいないし、
この部族のトーテムはライオンだから絶対に族長は喜ぶと思ったんだ。
それに今迄いろいろな贈り物を贈って反応を見た様子では族長は可愛らしい物がお好きなようだし」
これは何だ?まるで小さなライオンのようだと族長が尋ねると、
カルロスは恭しくお辞儀をしながらこう答える。
「これはライオンの化身でございます。
族長は大変ライオンがお好きだと伺っておりましたので、
ライオンを小さい身近で飼えるような可愛らしい姿にして差し上げようと思い連れてきたのです。
気に入っていただけたのなら光栄でございます」
カルロスは再び族長の目の前に進み出る。
腕を伸ばし猫の喉の下に手をやり、
「ほらこうやって喉を撫でると気持ちの良さそうな顔をしますよ」
と手本を見せると、
早速族長も真似してやってみる。
しばらくすると猫は目を細めごろごろと喉をならし始める。
族長は面白いと喜んだ。