しばらく猫の首の周りを撫でていると族長は何か新しい発見をしたようだった。
たてがみと首のあいだに指が入るぞ、
と不思議がるので、
カルロスはまた族長の前に進み出てちょっと失礼、
と猫の首に手を回し、
首周りを覆っていた襞襟を外した。
このたてがみは付け外しができるのか?
と族長が驚いているのを尻目に、
外した襞襟を自分の首周りにつけた。
族長はおおと叫んだきりぽかんとしていた。
カルロスは先程迄襞襟をつけていなかったが、
ミゲルは今日はずっとつけていた。
族長はしばらく二人を順々に見ていたが、
最後に手を叩いて笑い出した。
「わかったぞ! 人につけるものをこの獣につけていたのだな!」
族長は再び猫の背中を撫で、
それから可愛いねと首に軽く口付けをした。
「それにしても愛らしい生き物だ、
それにたてがみはないが雌ライオンや子ライオンには少し似ている」
そう言う族長に、
カルロスはこう説明する。
「この獣は本当は猫といいます。
この世で最も可愛らしくしなやかな体つきをした生き物と言われています。
わが国の博物学者によればライオンと同じ種類に属していますがライオンではありません。
もう今の姿で成長しきっていてこれ以上大きくはなりません」
カルロスがまた自分の首から襞襟を外して猫につけてやった。
「レオン、お前のたてがみをとって悪かったな」
族長は「こうするとまさしく雄ライオンの化身だ!」
と大変ごきげんである。
猫にとってはこんな首周りの邪魔くさいものは迷惑だったろう。
うにゃあと不機嫌そうな声で鳴いて毛を逆立て族長を睨む。
その姿を、族長はかえって敵に挑む勇敢な雄ライオンそのものだと喜んだ。
カルロスが末の若様の膝に猫を乗せようとする。
「若様も抱っこしますか?」
若様がぎゃあ叫んで立ち上がった。
不意に床に落ちた猫は、
しばらくばたばたと手足を動かし慌てていた。
まもなく立ち上がるとフーッと若様に向かって威嚇した。
若様は急に腰の短剣を抜いて猫に向けた。
カルロスには解らないここの言葉で、
族長が叱るような口調で若様に何か言う。
若様は泣きだして、
族長に何やら訴えているようだった。
しばらくすると彼のお世話をしているじいやさんがやってきた。
じいやさんは若様の頭を撫でながら、
彼の肩を抱いて出ていった。
若様の目には涙が残っていた。