医者にセックスは控えろと言われるけれど……
三月二十八日(夫の日記)
結果は脳動脈硬化が原因だという。
血圧が非常に高くて相当注意しないといけないそうだ。
ホルモン剤を打つのはやめて、アルコールをやめて、セックスも控えないといけないと言われた。
僕はわざとこのことを日記に隠さず書き、妻のは反応を見ようと思う。
そしてさしあたり僕は医者の忠告に耳を貸さないつもりだ。
いま妻とのセックスはこれまでにない境地にいたっている。
僕はどうしたらこれ以上情欲を駆り立てることができだろうか?
このままではまたすぐに刺激に慣れてしまうだろう。
どうしたら妻の貞操を傷つけることなしに、妻と木村をさらに接近させられるだろうか?
しかし僕がそれを考えるよりも先に、彼らがその方法を考え出さずにはおかないだろう。
彼らというのには、妻と木村だけでなく、敏子も入っている。
現在、僕、妻、木村、敏子の四人が力を合わせて妻を堕落させる、ということに向かって、一生懸命になっているのだ……
三月三十日(妻の日記)
久しぶりに健康な外気を呼吸して非常に爽快な時を過ごした。
三月三十一日(妻の日記)
………昨夜夫婦は酒の気なしに寝に就ついた。
夜中、私は蛍光燈の煌々こうこうとかがやく下で夜具の裾の方から左の足の爪先を、わざとちょっぴり外に出してみせた。
夫はすぐに気がついて私のベッドへはいって来た。
アルコールの力を借りないで、眩まばゆい燭光を強く浴びつつ事を行って成功したのは珍しいことであった。
この奇蹟的な出来事に夫は明らかに異常な興奮の色を示した。………
これは私に彼の日記帳を読ませる余裕を与えるためだと思う。
しかし夫が私に読ませようとすればなお、私は夫の日記を読まない。
しかしそれなら私の方も彼にこの日記帳を盗み読みする機会を作ってやらねばなるまい……。
三月三十一日(夫の日記)
彼女は行為の間中非常に積極的だった。
一体急にどうしたというのだろう。
眩暈があいかわらず激しい。
医者の所に行って血圧の検査をしてもらう。
あまりにも血圧が高いので、なんと血圧計が壊れてしまった。
医者は至急すべての仕事をやめ、絶対安静にする必要があると言う。