谷崎潤一郎『細雪』あらすじ

妙子の病気

雪子の愚痴を妙子に聞いてほしい、そう思った幸子は妙子が恋しくなります。

そんな折、妙子が病気になります。

妙子が啓坊の家に遊びに行っていた夜10時ごろ急に発病したのでした。

熱が40度近くもあり、悪寒戦慄を伴ってもいたので、帰ろうとするのを啓坊が引き止めて彼の家で寝かせました。

ところが容態がますますひどくなり、近所の医者を呼んだところ大腸カタルか赤痢だろうと診断がつきます。

そのまま妙子は啓坊の家で寝つき、啓坊と啓坊のばあやさん、蒔岡家から派遣された女中のお春が妙子を看病します。

幸子はかかりつけの医者を呼ぼうかとも思いますが、妙子の寝ている場所が啓坊の家なので、それを知り合いの医者に見せたくありません。

幸子は病気中の妙子を見てこう思います。

しかしそんなことよりも、ほかに幸子の注意を惹いたものがあった。

というのは、長い間風呂に入らないので、全身が垢じみて汚れているのは当然だとして、それとは別に病人の体には或る種の不潔な感じがあった。

まあ云ってみれば、日頃の不品行な行為の結果が、平素は巧みな化粧法で隠されているのだけれども、こういう時に肉体の衰えに乗じて、
(中略)
くったりと寝床の上に腕を投げ出している病人は、病苦のための窶ればかりではなしに、数年来の無軌道な生活に疲れ切ったという格好で、
(中略)
いったい妙子ぐらいの年齢の女が長の患いで寝付いたりすると、十三四歳の少女のように可憐に小さく縮まって、時には清浄な、神々しいような姿にさえなるものだけれども、妙子は反対に、いつもの若々しさを失って
(中略)
茶屋か料理屋の、しかもあまり上等ではない曖昧茶屋か何かの仲居、といったようなところが出ていた。

妙子の病気が悪性の赤痢だとわかったのち、幸子はやはり知らない医者では頼りない、かかりつけの医者を呼ぼうかと考えます。

しかし妙子がよく知っている医者が来ることをいやがります。

妙子も自分が奥畑の家で寝ているのを人に知られたくないのでした。

やっと入院できる病院が見つかります。

そこにかかりつけの医者が診察に来ます。

医者は妙子は大丈夫だと言いますが、幸子は妙子は危ないのではないか? と思い鶴子に手紙を書きます。

しかし3日もすると妙子は回復して命の危機ではないかと心配したのがばかばかしいいほどです。

鶴子に喜びの手紙を送りますが、帰って来た返事をみて幸子は不愉快になります。

鶴子からの手紙には妙子への愛情が感じられず、ただ妙子の葬式は誰が出すことになるかと考えて困っていたところ助かってほっとしている、というものでした。

妙子の病気が回復へと向かう中、幸子はお春からこんなことを聞きます。

お春は啓坊の家に通い妙子の看病をしていましたが、その間に啓坊の婆やからこんなことを聞いたのです。

妙子はここ数年来、大部分啓坊の経済的支援によって生活していたらしい。

特に芦屋の家を出てからは3回の食事をほぼ啓坊の家で済ませていたといいます。

洗濯物も啓坊の家に持ってきて婆やに洗わせたり、啓坊の家からクリーニングに出していたそうです。

また二人で遊び歩いたときも、その費用を全て啓坊に払わせていました。

また婆やは、お春に請求書や領収書を見せて、妙子が啓坊の家でいかに贅沢三昧していたかを示します。

妙子は、啓坊の金で高価な洋服を作ったり、百貨店や化粧品で高級品を買ったりしていました。

妙子は板倉とつきあいながらも啓坊と切れないようにしていたのは啓坊の金めあてだったらしいのです。

また啓坊は妙子のために宝飾品を奥畑商店から持ち出して、そのたびに兄に怒られて、勘当もそれが原因だといいます。

妙子は宝石や宝石を売りさばいて得た金を出所を事情を知っていながら、啓坊から受けとっていました。

それのみならず、妙子の方から特にどの宝飾品が欲しいなどと啓坊にねだったことも何度もあるといいます。

お春が婆やから聞いたのはそれだけではありませんでした。

妙子にはさらに別の男がいるらしいのです。

三好と言うバーテンダーでした。

啓坊の婆やは「別に妙子をうらんでいない。ただ啓坊はそれほど妙子を愛しているのだから、何とか妙子には啓坊を捨てないで奥さんになって欲しいと思っている」といいます。

妙子はまもなく回復します。

芦屋の家にしょっちゅう遊びに来ますが、そのほかはどこで何をしているかはわからないのでした。

幸子と貞之助は「もう妙子のような娘はあまり口出ししないでほうっておくのがよいのではないか? 変に強く言えばかえってグレてしまうだろう」と思い、啓坊やもう一人の男について厳しく問いただすことはしないのでした。

表面的には平和な日々が続きます。

一度だけ諍いがありました。

啓坊に満州皇帝の従者になるという就職の話がでたのです。

妙子はただのボーイだから低脳のぼんぼんでも出来る仕事だ、啓坊にぴったりだ、と面白おかしく語ります。

ただ彼にはついていく人がいません。

一人では寂しいだろう、こいさんついていってあげれば? と幸子は妙子にすすめますが、妙子はそんな気はない、むしろ別れるよいチャンス、と言います。

幸子、雪子はその態度はあまりにもひどい、さんざん利用しておいて、利用価値がなくなったら遠くに行ってしまえだなんて! と妙子を責めます。

妙子は機嫌を悪くして、ドアをばたんと鳴らして出ていってしまいました。

しかししばらくするとすぐに妙子はケロリとした様子で戻ってきて、姉妹はすぐに仲直りします。

また啓坊の満州行きは中止になったという知らせが入ります。
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