谷崎潤一郎『少年』あらすじ

狐ごっこ

それから四五日たったある日、栄ちゃんはまた信一の女中さんに誘われます。

「今日はお嬢様のお雛様が飾ってございますから、お遊びにいらっしゃいまし」

と誘ってくれたのです。

屋敷に入ると仙吉も現れ、一緒に座敷に上がります。

仙吉と一緒に座敷に通されるとひな壇の前に信一、光子がいました。

こうして四人の子供が勢ぞろいしたのです。

白酒を飲んでいるうちに四人の子供は酔っ払ってしまいます。
四人の子供は

「エーイッ、あゝ好い心持だ。己は酔って居るんだぞ、べらんめえ」

などとふざけだします。

正気ではなくなってふざけまくっていると、仙吉が遊びの提案をしました。

「あッ、坊ちゃん/\、狐ごっこをしませんか」

仙吉がふと面白い事を考え付いたようにこう云い出した。

私と仙吉と二人の田舎者が狐退治に出かけると、却って女に化けた光子の狐の為めに化かされて了い、散々な目に会って居る所へ、侍の信一が通りかゝって二人を救った上、狐を退治してくれると云う趣向である。

酔った子供たちがふざけながらごっこ遊びをします。

狐役の光子に

二人とも化かされてるんだから、糞を御馳走のつもりで喰べるんだよ

これは小便のお酒のつもりよ。―――さあお前さん、一つ召し上がれ

と言われると、栄ちゃんと仙吉は光子が作った

自分の口で喰いちぎった餡ころ餅だの、滅茶滅茶に足で蹈み潰した蕎麦饅(そばまんじゅう)だの、鼻汁で練り固めた豆妙りだの

や痰やつばきを吐きこんだ白酒を「おいしい、おいしい」と食べてしまいます。

最後に光子が退治される場面となりました。

信一、栄ちゃん、仙吉は

獣の癖に人間を欺すなどゝは不届きな奴だ。ふん縛って殺して了うからそう思え

と三人で光子を後手に縛り上げ、縁側の欄干に括りつけます。

最後に「さるぐつわをはめてしまえ!」と、光子の顔の口のあたりを縮緬のしごき帯で締め付けます。

そして菓子を口に含んではぺっと光子の顔に吐き散らし、餡ころを押し潰したり、大福の皮をなすりつけたりして、光子の顔をまんべんなく汚してしまいます。

ついにはこんな状態になってしまいました。

濃艶な振り袖姿をしている所は、さしずめ百物語か化物合戦記に出て来そうで、光子はもう抵抗する張合もなくなったと見え、何をされても大人しく死んだようになって居る。

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