この記事では古事記を代表する英雄、スサノオ(スサノオノミコト)とヤマトタケル(ヤマトタケルノミコト)を紹介します。
スサノオ(スサノオノミコト)
ここまでのあらすじ スサノオアマテラス そしてツクヨミ
イザナギノミコト
私はなんて穢い国に行っていたのだろう!
イザナギノミコトは天照大神(アマテラスオオミカミ)には、高天原(天上世界)、月読命(ツクヨミのミコト)には夜之食国(よるのおすくに)、湏佐之男命(スサノオノミコト)は海原の統治を命じました。
天照大神(アマテラスオオミカミ)、月読命(ツクヨミノミコト)はお父さんのイザナギノミコトの言いつけをよく守りましたが、湏佐之男命(スサノオノミコト)は海原の統治をせずに泣いてばかり……
イザナギノミコト
スサノオよ……
なぜ海原を支配しないで、泣いてばかりいる?
スサノオノミコト
私は根之堅州国(ねのかたすくに)にいる母上が恋しくて会いに行きたいのです。
うえーん!!。・゚・(ノД`)・゚・。
イザナギノミコト
それならお前はこの国に住むな!
ヽ(`Д´)ノプンプン
イザナギノミコトは大変怒って、湏佐之男命(スサノオノミコト)を追放してしまいました。
スサノオが高天原にお姉さんのアマテラスに会いにやってきた。アマテラス超警戒する
スサノオは根之堅州国(ねのかたすくに)に行く前に、高天原に住むアマテラスを訪ねてきます。
スサノオが高天原にやってくると、山川、大地がことごとく震えます。
アマテラスは。
アマテラス
弟がワタクシの国にやってくるのはきっと何か悪いことを考えているのだわ。
我が国を奪おうと思っているのでしょう!
と恐れて、
髪をといて、みずらに結いました。(つまり男装)
左右のみずらや、両腕におまもりの勾玉をまきつけて、さらに背中には千本の矢が入った矢筒を背負い、脇には五百本の矢の入った矢筒をかかえ、脚で雄々しく、地面を踏みながら。
アマテラス
何をしに来た! (`Д´)
とスサノオに問います。
スサノオ
僕には悪い考えはありません。
ただ父上が僕が泣いているばかりいる理由を聞くので、
「僕は母上の国に行きたくて泣いているのです」と答えました。
すると父上は「お前はこの国から出ていけ」とおっしゃったので、母上の住む黄泉の国に行くつもりですが、その前に、姉上にご挨拶しようと思ったのです。
アマテラス
でもお前に邪心がないことは私はどうやって知ることができるだろう?
スサノオ
それではうけいをして僕の心が浄いことを証明しましょう
うけい
二人はうけいを始めました。
アマテラスはまずスサノオの佩いていた十拳の剣をうけとると、三つに折って口の中に含んで、噛みしだいたあと、吐きだしました。
アマテラスによって吐き出された十拳の剣からは三人の女神が生まれました。
生れた三人の女神の名前は……
多紀理毘売命 (タキリヒメノミコト)。またの名は奥津嶋比売命(オキツシマヒメノミコト)。
市寸嶋比売命(イチキシマヒメノミコト)。またの名は狭依毘売命(サヨリビメノミコト)。
多岐都比売命(タキツヒメノミコト)
次はスサノオがアマテラスのみずらや両手首にまきつけられていた勾玉を受け取ると、それを口に含み、バリバリとかみしだくと吹きき出しました。
それによって五人の男神が生まれます。
左の角髪から生まれた子 正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト)
右の角髪の勾玉から生まれた子 天之菩卑能命(アメノホヒノミコト)
みずらにに巻いていた珠から生まれた子 天津日子根命(アマツヒコネノミコト)
左手にまいている珠から生まれた子 活津日子根命(イクツヒコネノミコト)
右手に巻いていた珠から生まれた子 熊野久須毘命(クマノクスビノミコト)
アマテラス
あなたが生んだ五人の男の子は私が持っていた勾玉や珠から生まれたから私の息子ね。
私が生んだ三人の女の子は貴女の剣から生まれたからあなたの娘ね。
さてここでスサノオは
スサノオ
俺が男の子を生んだということは、つまり私のこころが清いことの証明です。
がはっはっはっはっ!
と勝手に勝利を宣言してしまいます。
よく考えたらうけいをする前に、結果が〇〇だったら身の潔白が証明される、という取り決めをしていませんでしたね。
ですからどういう結果がでたら、スサノオが潔白なのかそうでないのか、判断のしようがないはずなのですが……
なぜか我が国の最高神であるアマテラスさまはスサノオの言うことに納得してしまい、スサノオを高天原に受け入れることにしました。
この辺のゆるさが古事記の魅力でもあります。
スサノオの乱暴狼藉 アマテラス必死でかばう
うけいに勝利して、おおいばりで高天原で暮らすようになったスサノオは暴れん坊の神様らしく、乱暴狼藉のしたいほうだい。
こんな悪いことをします。
・アマテラスの作る田の畔を断ち切る。
・田に引く水路の水を埋める。
・アマテラスが新穀を召しあがる大嘗祭の御殿に大便をまき散らす。
アマテラスの悪い予想が当たってしまったわけですね……
しかしアマテラスは必死で弟をかばいます。
アマテラス
大便のように見えるのは、おそらく酔って吐き散らしたものでしょう。
また畔を断ち切り、溝をうめたのは、新しい田んぼにしようと思ったからでしょう。
しかしこんな姉の優しさにちっとも感謝せずスサノオの悪行はますますひどくなります。
アマテラスが神聖な機織り屋で機織り女に神衣を織らせているときに、スサノオは機織り屋の屋根をうがち、皮をはいだ斑馬を屋根から落としました。
天井から皮をはいだ馬が落ちてきたのに驚いた機織り女は驚いて、その拍子にホトを杼でついて死んでしまいます。
スサノオの乱暴狼藉に怒ったアマテラスは天岩戸に引きこもる
ついにアマテラスは怒って、天野岩屋の戸の中に引きこもってしまいました。
アマテラスが引きこもってしまうと、高天原も葦原中つ国も悉く暗くなってしまいます。
これからは常夜の世界となってしまいました。
万物の災いが悉く起こります。
そこで八百万の神が集まって相談します。
アマテラスのこもっていた天の岩戸の前で
天宇受売命(アメノウズメノミコト)という踊り女が蔓(かずら)をたすきがけににして、マサキカズラ(植物名)を髪に飾り、手には笹の葉を束ねて持ち、桶を伏せてその上に立って踏みならしました。
天宇受売命(アメノウズメノミコト)は踊っているうちに神がかって来て、胸をはだけ、ホトをあらわにします。
すると八百万の神様たちがどっとわらいます。
アマテラスは思います。
アマテラス
わたしが岩戸にこもっていて、高天原も葦原中国も暗いというのに、なぜ アメノウズメは遊びをして八百万の神は笑っているのかしら……
すると岩戸の外からこう声がしました。
アマテラス
まあ、私より貴い神?
そう思うアマテラスの前に神様たちは
と鏡を差し出しました。
アマテラスが見たのは鏡の中に映った自分でした。
アマテラスはどうしても気になり、ほんの少しだけ戸から出たところ、戸の陰に隠れていた力の強い男神がアマテラスの手をとって、外に引っ張り出しました。
しめ縄をアマテラスの後ろのほうに引き渡して、
といいました。
アマテラスが岩戸から出てくると高天原も葦原中国も光を取り戻しました。
八百万の神は協議して、スサノオの髭と手足の爪を切り、祓いをすると追放しました。
八岐大蛇
スサノオは高天原を追放されて、出雲の国の肥河上、鳥髪というところにやってきました。
そのときに箸が河に流れてきました。
そこでスサノオは河上に人が住んでいるに違いにないと思って、河上に向けて登っていきました。
そこにはお爺さんとお婆さんがいて、間に若い娘を挟んで泣いています。
スサノオ
おまえたちはだれだ?
アシナヅチ
私たちは国つ神、大山津見神の子です。
私の名前は足名椎(アシナヅチ)といいます。
妻の名前は手名椎(テナヅチ)といいます。
娘の名前は櫛名田比売(クシナダヒメ)といいます。
シクシク(ノД`)・゜・。
スサノオ
なぜ泣いているのだ?
アシナヅチ
私にはもともと八人の娘がおりましたが、
この地方に出る八岐大蛇(やまたのおろち)が毎年一人ずつ食べてしまいます。
この娘が最後の娘で、今日が娘がおろちに食べられてしまう日なのです。
スサノオ
おろちってどんなやつなんだ?
アシナヅチ
その目はほおずきのように赤く、一つの体に八つの頭と八つの尾があります。
体には日陰かずらやヒノキや杉が生えていて、その長さは谷八つ、峰八つを越えます。
その腹はいつも血でただれています。
スサノオ
(* ̄- ̄)ふ~ん、ところで、お嬢さんを私にください
アシナヅチ
しかしわたしはまだあなたのお名前も知りません。
スサノオ
私は天照大神(アマテラスオオミカミ)の弟です。
今高天原より降りてきました。
(`・∀・´)エッヘン!!
アシナヅチ
そうでしたか! (゚д゚)!
恐れ多いことです。<(_ _)>
娘は差し上げましょう。
スサノオは娘を櫛に変身させて、みずらにさしました。
スサノオはアシナヅチ、テナヅチにこう命じました。
スサノオ
お前たちは何度も繰り返し醸した濃い酒を造るんだぞ。
そしてまた垣をつくり廻らし、その垣に八つの入口を作り、入口ごとに八つの仮設の棚を結びつけろ!
そしてその棚ごとに酒桶を置いて、桶ごとにその繰り返した醸した強い酒を盛るのだあ!
アシナヅチ、テナヅチがスサノオの言う通りにして、おろちを待っていると、おろちがやってきました。
おろちは酒樽ごとに頭をいれて、その酒をぐびぐびと飲み干します。
そしておろちは最後に酔っ払って眠ってしまいました。
スサノオ
よし! そろそろいいだろう。
グサリ!
スサノオは愛用の十拳剣(とつかのけん)を抜いて、おろちをばらばらに切ってしまいました。
肥河は血になって流れました。
おろちの尾を斬った時に十拳剣(とつかのけん)の刃が欠けました。
スサノオ
あれ、おかしいな蛇のしっぽを切ったら剣の刃が欠けるなんて……
スサノオが不思議に思い、おろちのしっぽを刀の先で刺し裂いて中を見ると、中に太刀がありました。
これは草薙の太刀です。
スサノオはこの太刀を尋常ではないものと思って、アマテラスに献上しました。
アマテラス
まあ。ありがとう(⌒∇⌒)
暴れん坊のスサノオもお嫁さんをもらって、ついに落ち着く
スサノオは自分の宮殿を作るべきところを出雲の国で探すことにしました。
須賀(島根県雲南市大東町須賀)に行ったときに、
スサノオ
私はここにきて、心がすがすがしい
と言って、そこに宮殿をつくりました。
そのためこの場所は須賀という名前になりました。
スサノオが須賀に宮殿を作るとその地から雲が立ち上りました。
スサノオは歌を詠みます。
スサノオ
八雲たつ
出雲八重垣
妻籠みに
八重垣作る
その八重垣を
古事記に和歌が出てくるのはこれが初めて。
つまり、スサノオは日本で初めて和歌を作った人(神さま)だといえるのです。
乱暴もののスサノオと和歌のとりあわせはちょっと意外ですね。
そこでスサノオは、クシナダヒメと幸せに暮らしましたとさ。
クシナダヒメのお父さんのアシナヅチはスサノオの宮殿の執事となりました。
めでたしめでたし。
古事記のスサノオの物語はここでいったん終わるのですが、完全に退場というわけではありません。
その後「オオクニヌシ」の物語で、若者の恋人のお父さん役として登場するのですが、この記事ではいったん区切りとしてヤマトタケルの物語に移ります。
ヤマトタケル(ヤマトタケルノミコト)
ヤマトタケルはスサノオの時代よりずっとずっと後の人です。
どのくらい年代が離れているかというと、ヤマトタケルは、スサノオのお姉さんの五代目の子孫が初代天皇の神武天皇。
そしてヤマトタケルは第十二代天皇である景行天皇の皇子になります。
恐るべき少年 ヤマトタケルの子供時代
景行天皇には大碓(オオウス)小碓(オウス)という皇子がいました。
天皇はあるとき、三野の国造の祖先である大根王にエヒメ、オトヒメ、という美人姉妹がいると聞いて、側女にしたいと思いました。
そこでオオウスに三野の国を訪れて、二人の美女をつれてくるように命じます。
ところが、オオウスは二人の美人姉妹を連れて来ると自分の妻にしてしまい、他の女性をエヒメ、オトヒメだと偽って、天皇に献上しました。
オオウスは、天皇にはほかにたくさんの女性がいることを妬ましく思っていたのとまた自分が結婚していないことで悩んでいたのです。
オオウスとエヒメ、オトヒメの間には子供も生まれました。
さてオオウスは父に嘘をついていたので後ろめたかったのでしょうか?
オオウスは天皇の朝夕の食事にやってこなくなりました。
そこで天皇はオウスにこう言いました。
天皇
おまえの兄、オオウスは、最近ちっとも朝夕の食事にやってこないぞ。
よくないことだな。
おまえはお兄さんをよくねぎさとして連れていらっしゃい。
「ねぎさとして」というのは よくねぎらい、(兄が二人の美女をつれてきたことを)、さとす(ちゃんと食事にくるように教え聞かせる)という意味です。
しかしそれから五日たってもオオウスは現れませんでした。
そこで天皇はオウスにこうおっしゃいました。
天皇
いまだにお前の兄はやってこないぞ。
もしかしてまだお前は兄に言っていないのではないか?
するとオウスは
オウス
僕はもう兄上をねぎさとしました。
と答えます。
そこで天皇が
天皇
どのようにねぎさとしたのか?
と問うと、
オウスは驚きの返答をします。
オウス
兄上が朝、便所に入るのを待ち構えて、捕らえて、握って打って、その腕をひきかき、こもにつつんで便所に捨てました。
クマソタケル征伐 ヤマトタケルの誕生
恐ろしい((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
そばにいて欲しくない。
そう思った天皇はオウスに、こう命じました。
天皇
西の方にクマソタケルという二人の兄弟がいる。
我が国に従わない礼儀知らずな連中だ。
そのクマソタケルたちをせいばいしてまいれ!
その時オウスはまだ十五、六歳の若者でした。
ろくな軍隊もつけてもらわずに初めての遠征、不安に思ったのでしょうか?
西征に行く前に、おばのヤマトヒメを訪ねます。
オウス
おばさん、僕はどうしたらよいでしょう?
ヤマトヒメ
オウスよ……これを持っていきなさい。
ヤマトヒメは自分の着物をオウスに渡しました。
ヤマトヒメから着物をもらうと、オウスは剣をふところにいれて西にむかいました。
オウスはクマソタケルの屋敷に到着します。
オウス
守りが堅そうな屋敷だなあ、とても入れそうにないや
クマソタケルの屋敷の周りは兵隊が三重に囲んでいて、山の岩窟をつくっています。
新築祝いだそうで、ご馳走の準備をしています。
そこでオウスはしばらくはクマソタケルの屋敷の周りをうろうろして、新築祝いの宴の日を待ちました。
そしてその新築祝いの宴の日には、オウスは結っていた髪をたらして、おばのヤマトヒメからもらった着物をまとい、少女の姿になりました。
そしてオウスは女性の間に交じり、クマソタケルの屋敷に入りこみました。
クマソタケル兄弟は少女に変装したオウスを可愛いと心惹かれ、兄弟の間に座らせ、おしゃくをさせます。
宴のたけなわる時に、オウスはふところより剣をだすと、クマソタケル兄弟の兄の方の衣の襟をつかんで、剣を胸から刺し通しました。
するとクマソタケルの弟が逃げ出します。
弟を階段の下まで追い詰めると、オウスはその背をつかんで、つるぎを尻から刺し通しました。
尻から剣を刺し通されたクマソタケル弟がこう言います。
クマソタケル
その太刀をまだ動かさないでください、あなたに言いたいことがあります。
オウス
よし、まだ殺さないで待ってやろう。
クマソタケル
あなたはだれですか?
オウス
俺はは纒向日代宮(まきむくひしろのみ)にいらっしゃって、
大八島国(おおやしまくに)をお治めになる、
大帯日子淤斯呂和氣天皇(おおたらしひこおしろわけのすめらみこと)の御子、
名前は倭男具那王(やまとおぐなのみこ)だぞ!
お前どもクマソタケルの二人が、天皇にしたがわず礼儀知らずだと天皇がお聞きになって、
俺にお前どもを取り殺せとお命じになったので、やってきたのだ!
クマソタケル
そうでしたか、この国には私達二人をおいて、他に強い人はいませんでしたが、大和の国には私よりも強い男がいたとは(゚д゚)!
ここで私はあなたに名前をさしあげましょう。
いまよりあなたはヤマトタケルの御子と名乗ってください!
クマソタケルがそう言い終わると、オウスはクマソタケルを殺してしまいました。
その時よりオウスはヤマトタケルノミコトと名乗るようになりました。
イズモタケル征討 ヤマトタケルのだまし討ち
ヤマトタケルノミコト(以下ヤマトタケル)はクマソを発つと、今度は出雲の国に行きました。
その国の長であるイズモタケルをやっつけようと思って、まずは仲良くなりました。
ヤマトタケルはひそかに赤ヒノキで、偽物の太刀を作ります。
ヤマトタケルはイズモタケルに一緒に水浴びをした後、川から上がって着物を着るときに、イズモタケルにこうもちかけます?
ヤマトタケル
仲良くなったしるしに、お互いに、太刀を交換しないかい?
イズモタケルはヤマトタケルの言う通りにして、ヤマトタケルが作った偽りの太刀を佩きました。
こんどはヤマトタケルはイズモタケルに
ヤマトタケル
太刀合わせをしようよ!
ヤマトタケルとイズモタケルは一緒に太刀を抜こうとしますが、イズモタケルの佩いた太刀は偽物ですから、抜くことができません。
ヤマトタケルはまごまごしているイズモタケルを立ちで斬ってしまいました。
イズモタケルを亡きものにした後、ヤマトタケルは歌をうたいます。
ヤマトタケル
やつめさす イズモタケルが佩ける太刀 つづらさわまき さみなしあわれ
(イズモタケルが佩いている太刀は、ツルを立派に巻いているが、実は刀身がないんだよ。ああおかしい!)
ヤマトタケルの東征
ヤマトタケルが国に戻ると、天皇はヤマトタケルにこうおっしゃいました。
天皇
東方の荒ぶる神と従わない人どもを言い聞かせて従わせろ!
出征にあたって天皇がヤマトタケルに与えたのは、つきそいと、ヒイラギの長い矛だけ。
軍隊は与えてくれなかったのです。
この天皇の命令を受けて出発したヤマトタケルは、伊勢神宮に参拝しました。
ヤマトタケルは、伊勢神宮のおばのヤマトヒメにあうとこう言って泣きました。
ヤマトタケル
父上は私が死ぬことを望んでいらっしゃるのだろうか?
西国の平定からもどってきてから、まだそれほど時間もたっていないのに、私に軍隊もあたえないで、東国の平定をお命じになるとは……
こんなことをおっしゃるのは私が死ぬことを望んでいらっしゃるに違いない!
ヤマトヒメはヤマトタケルに草薙の太刀を与え、また袋を与えて、ヤマトタケルをなぐさめました。
ヤマトヒメ
もし危険なときは、この袋の口を解きなさい
ヤマトタケルは尾張の国に行き、尾張の国のみやつこの祖先美夜受比売(ミヤズヒメ)の家に滞在しました。
ヤマトタケルはミヤズヒメと結婚したいと思いましたが、今は、東国に行く途中です。
そこで、東国から戻ってきたときに結婚しようとミヤズヒメと約束して、東に向かいます。
ヤマトタケルは山河の荒ぶる神と天皇にしたがわない人々を説得して、従わせました。
ヤマトタケル、相模の国でピンチとなる
ヤマトタケルが相模の国に行ったときです。
そこの国造(くにのみやつこ)がこういってヤマトタケルを騙そうとしました。
相模の国のみやつこ
この野の中に大きな沼があって、この沼の中に住んでいる神が、いたくちはやぶる神です
ヤマトタケルはその言葉を信じ、そのちはやぶる神さまに会おうと思って、野に入りました。
すると相模の国のみやつこは野に火をはなちます。
騙されたことに気がついたヤマトタケルがヤマトヒメからもらった袋の口を開けると、中に火打ち石がありました。
ヤマトタケルは草薙の太刀で草を刈りはらい、その火打石で火をおこし、向かい火にして、火をしりぞけました。
野原の外にでてくると、国のみやつこどもを斬り滅ぼして、火をつけて焼きました。
そのためこの土地は「焼遣(やきつ)」と言います。
オトタチバナヒメ ヤマトタケルの献身的な奥さん
そこよりさらにいって、走水の海(三浦半島と房総半島の間にあります)を渡ろうとしました。
そこの海の神様が波を起こします。
船がくるくるまわって、なかなか船が進みません。
そこでヤマトタケルの妃の弟橘比売命(オトタチバナヒメノミコト)が
オトタチバナヒメ
私がヤマトタケルさまに代わって海の中に入ります。
ヤマトタケルさまは東征を成功させ、大和に帰るべきです
と言って、海に身を投げることを決意しました。
オトタチバナヒメは畳を波の上に敷いて、その上に座ります。
オトタチバナヒメが波間に消えていった後、荒波が静まって、船も前に進むようになりました。
ヤマトタケルは自分のために犠牲になってくれた、オトタチバナヒメを思って歌を詠みます。
ヤマトタケル
「さねかし 相模(さがむ)の小野に 燃ゆる火の
火中(ほなか)に立ちて 問ひし君はも」
(現代語訳 相模の野で炎が燃える中、君は私の名を呼んでくれた・・・・相模で国造に火を放たれたときのことですね。)
オトタチバナヒメが海の神の犠牲になってから、七日たちました。
海辺にオトタチバナヒメの櫛が落ちているのをヤマトタケルは見つけました。
ヤマトタケルはその櫛を埋めてお墓を作りました
それからヤマトタケルは荒ぶる蝦夷(えみし……東国の異民族)たちを、ことごとく説得して、また山河の荒ぶる神たちも説得して、天皇に従うようにさせました。
東国の平定が終わり、西に帰るときに、ヤマトタケルは足柄山に登ると、
ヤマトタケル
あづまはや(わが妻よ!)
とオトタチバナヒメを思って嘆きの声を出しました。
それ以来、この地方は「あづま」というようになりました。
ヤマトタケルの最期
その後、尾張の国に戻り、ヤマトタケルはミヤズヒメと結婚ました。
しかし、おごりから失敗をして、うっかり命をおとしてしまいます。
あるときヤマトタケルは
ヤマトタケル
この山の神なんて素手でやっつけてやるぞ!
と、草薙の太刀をミヤズヒメのもとにおいて、伊吹山に登ります。
山に登るときに白い猪に山の中腹で出会います。
まるで牛のように大きな猪でした。
ヤマトタケルはその猪を見て、
ヤマトタケル
この白猪は山の神のつかいだろう。今やっつけなくても後でやっつけてやる!
と、山を登り続けます。
実はこの白猪は山の神の遣いではなく、伊吹山の神でした。
ヤマトタケルの不遜な言葉に怒った伊吹山の神ははげしいヒョウを降らせました。
ヤマトタケルはいのちからがら山を下りさまざまな歌をよみながら、各地を歩き回りますが、もう息も絶え絶えです。
瀕死の状態でこのような歌を詠みます。
ヤマトタケル
大和は 国のまほろば たたなづく 青垣山ごもれる 大和し 美し
ヤマトタケル
命の またけむ人は 畳薦(たたみこも) 平群(へぐり)の山の 熊白檮(くまかし)が葉を 髻華(うず)に挿せ その子
現代語訳・・・(私とは違って)元気な人は畳薦(たたみこも)のような平群(へぐり)の山の、熊白檮(くまかし)の葉を髪にさしたりして、(楽しみなさい)
ヤマトタケル
はしけやし 我家(わぎへ)の方よ 雲居立ちくも
現代語訳・・・いとしい、我が家の方から雲が立ち登っていく
そして最後に
ヤマトタケル
嬢子(おとめ)の 床のべに わが置きし 剣(つるぎ)の太刀(たち) その太刀はや!
現代語訳・・・・ミヤズヒメの床に置いてきた草薙の太刀よ! ああ!あの太刀よ!
と絶唱して亡くなってしまいました。
ヤマトタケルは武器をもたずに伊吹山に登ったことを最後にとても後悔していたようです。
クマソタケルの館にて
白鳥になって飛んでいく ヤマトタケルのお葬式
ヤマトタケルが亡くなると、大和にいた、ヤマトタケルのお后と、子供たちがお墓を作り、お墓の周りに腹ばいになって、泣きました。
するとヤマトタケルの魂は白鳥になって、空に登って、浜に向かって飛んでいきます。
お后たちと子供たちは、泣きながら、白鳥を追って歩きます。
途中で細い竹の切り株で足を怪我をしても、その痛さを忘れて、白鳥になったヤマトタケルを追い続けます。
ヤマトタケルのお后A
浅小竹原(あさじのはら) 腰なづむ 空は行かず 足よ行くな
(現代語訳)
小さい竹が生えた野原を進めば 竹が腰にまとわりついて進みにくい。
私たちは空を飛べない。脚で行くしかない。
白鳥が海の上を飛ぶようになると、お后たちと子供たちは海水に入ってなお、追い続けます。
ヤマトタケルのお后B
海が行けば 腰なづむ 大河原の 植ゑ草 海がはいさよふ
(現代語訳)
海の中を行けば 腰に海水がまとわりついて進みにくい、
広い河原生えている水草のように 海のなかでは進もうとしてもなかなか進めない