小説『小虎』第7章 再会(1)

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チワワが来てから半年たった冬の日だった。

私は島のオバちゃんと一緒に
一面のススキ野原の合間を歩いていた。

さわさわと葉のかすれる音が耳を襲う。

私は心細くなり、
オバちゃんに寄りかかって、
ね、ね、
あの歌、歌ってよ、
とねだった。

「どんぶらこっこ、
どんぶらこっこ、
寝ない子だあれだ!?

泣あいてばあかりの悪い子わあ、
たらいのふうねにのおせてえ、
ううみになあがあすぞ!

どんぶらこっこ、
どんぶらこっこ」

オバちゃんはいつも私を学校に連れて行くときのように、
寒空に向かって歌いだした。

「うううみいにい、
なあがあすううぞお、
どんぶらこっこ、
どんぶらこっこ」

いつもオバちゃんはここで良く肥えた下半身を
どっしりと中腰にする。

両腕を前に出して、
波のように動かす。

だが、
今日はおばちゃんの腕はテレビほどの大きさもある、
プラスティックの籠にふさがれていた。

そこで私がこの役目を
代わりに果たすことにした。

どんぶらこっこ、
どんぶらこっこ!
と口ずさみながら両腕を伸ばす。

肘から下を海の泡立ちになったつもりで
何度も回転させる。

「なあああああ!

があああすうううぞおお!

どんぶらこっこ、
どんぶらこっこ!」

オバちゃんの声は張りがあり力強かった。

歌は冷たい空気を切り裂き、
ススキの海に響き渡った。

歌が続く。

「どんぶらこっこどんぶらこっこ!

ざばーん!

ざばーん!

どんぶらここっこ!

どんぶらっこっこ!

ざばーんざばーん!」

私はすっかり気分が乗り、
腕を動かすだけでは物足りなくなった。

舗装されていない石だらけの道を前後に飛び跳ねた。

「ざばーん! ざあばああーん!」

オバちゃんは美声の持ち主だった。

もう少し彼女に野心があれば
プロの民謡歌手になっていたかもしれない。

「こおおよおいわあ!

さああかああなあのおお、
えんかいだあ!
(今宵は魚の宴会だ)」

この歌は
最後はこう一節歌って
唐突に終わる。

私は何で最後にお魚が宴会するの?
とオバちゃんに聞くと、
そりゃあ人間の子が落ちてきたら、
小さいお魚にとっては大ご馳走だもの!
海の底では大宴会ですよ!
と教えてくれた。

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