ドアのベルが、
じいじいとダイヤル式電話のような古臭い音をたてた。
妻は金魚の刺繍がされたエプロンをはためかせながら、
廊下に出て行った。
無地のなすび色の縁の、
茶けた畳には、
写真が散らばっている。
黒の前掛け、
股引、
地下足袋に、
揃いのはっぴを着た私と妹。
七五三の飴をぶらさげた桃割れに赤いおちょぼ口の妹。
重たげな前髪を真ん中で二つに分けた羽織袴の花婿。
白無垢に文金高島田のげじげじ眉毛の花嫁。
これは誰の結婚式だろう?
集合写真の女性達は皆いかり肩で、
爆発したようなソバージュヘアだ。
前髪をトサカのように立ち上げた、
スカーフ柄のワンピースの若い女性が小さな男の子と手をつないでいる。
妹がこれって洋子叔母さんと、お兄ちゃん?
と聞くので覗き込んでみる。
少年は何度も着た覚えのある臙脂のベストを着ている。
妻が戻ってきた。
スグルさん例のおがみやさんのお友達よと、
嫌そうな顔をする。
私と妻は友達にいわせれば、
まるで血のつながった兄弟のようによく似た夫婦だそうだ。
けれども、
この事においてだけはきっと生涯わかりあえないだろうと思った。
今日はわざわざ彼女が嫌がるようなことはするまい。
私は今日は遅くなるから、
夕飯はいらないよ、
とダウンジャケットを肩にひっかけると、
部屋を出た。