ぴんぽんぱんぽんという電子音が聞こえた。
「僕達、私達が帰る時刻になりました。
暗くならないうちにお家に帰りましょう。
大人の皆さん、
まだ遊んでいる子供がいたら、
お家に帰るように声をかけましょう!」
町の子供に家に帰るよう呼びかける放送だった。
「ことらあ!
すぐるくうん!」
歌うような女性の声が響く。
シンセイサイザーの音色が夕空を渡る。
喜多郎の『シルクロードのテーマ』だ。
この頃、
夕方の放送の後は必ずこの音楽が流れていたのだ。
「ことらあ!
すぐるうくうん!」
良子の声はゆったりとした音楽の効果音となっていた。
夕日を背景に無機質な団地の建物が続いている。
空はマーブル模様のようなオレンジ色のグラテーションだ。
コンクリートの床も神社の狛犬や瓦も、
団地の建物もオレンジ色に染まっている。
そんな景色の中、
雄大な音色を聴いていると、
寂寥感と希望とが混じりあったような気持ちになる。
私は首を右上に傾けた。
小虎の横顔には影が落ち半分見えない。
「ことらあ!
すぐるくうん!」
二つの四角い建物の合間から良子が現れた。
両手を花のように開いて口元に当てている。
近づいてくる。
もう帰らなきゃだめよ、
お家で心配しているわ、
と私の肩を押す。
サルビアの花びらのような感触の二の腕が私の肩から背中を包む。
太陽が、
三角が並んだような常緑樹の森に沈みかけていた。
その上を無数の黒いものが飛んでいる。
小虎と良子が住む棟の左脇に大きなイチョウの木があった。
枝には蝙蝠が冬に繁る葉のようにびっしりと並んでいた。