『小虎』第13章 弟橘姫入水【フリー朗読(声劇)台本として利用可】

1人用声劇台本まとめページ

いいえ!
おまえが生贄になっても何の役にも立ちません!
と姫はヤマトタケルの腕の中でりんと声を張らせた。

「海が荒れているのは御子みこがこの海が小さいと馬鹿になさったため、
海の神がお怒りになったのです。

ご機嫌をとるには御子みこが海に身を投げるしかありません」

あたりが騒然となった、
ヤマトタケルが立ち上がっておお!
ともああ!
とも聞こえる唸り声をあげた。

「しかし御子みこにはこれから大事なお役目があります。

今お命を失うわけにはいきません。

夫婦は一心同体といいます。

ワタクシが御子みこの代わりに海に身を沈めれば、波風は静まるかと存じます」

「駄目だ!」

「ほかに手立てがありますか?」

ヤマトタケルと姫はしばらく視線を絡ませ合った後、
ひしと抱き合った。

「さねかしいいい、
さがあむのおのおにい、
もゆうるうひいのおお、
ほなあかあにたちいてえ、
といしきみはもお」

姫が朗々と読み上げた。

「きみいさらあずうう、
そでしがうらにいい、
たつううなみいのおおお、
そのおもかげをお、
みるぞかなしきいいい」

ヤマトタケルが絶唱した。

がさりと音がして舞台の天井から布が落ちてきた。

巨大な短冊のようなもので、
少し崩した字で、

「さねかし
相模の小野に
燃ゆる火の
火中に立ちて
問ひし君はも
弟橘比売《オトタチバナヒメ》」

「君去らず
袖しが浦に
立つ波の
その面影を
見るぞ悲しき
日本武尊《ヤマトタケルノミコト》」

と書かれていた。

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