ああのどかだなあ!
と二郎叔父が私より三列離れた座席で大きく体をそらせた。
バスの中は私と二郎叔父以外誰もいない。
開け放しにされた窓の外はこんもりとした黄緑で埋め尽くされていた。
緑の太いモールのような畑が縦に何十列も並んでいる。
ふくら織りの文様にアクセントをつけるように、
途中から横並びになる。
緑の向こうには深緑の並行して続く山々が見える。
その背後は日が落ちかけて少しくすんだ色となった水色の空だった。
改札口の一つしかない駅を降りて三十分たっていた。
延々と茶畑の中の道を走りつづけている。
道はまるで私達が乗るバスが目的地にいくためだけにあるように思えた。
駅を出てからいままで一度も他の車に出会っていない。
道を歩いている人さえ見なかった。
駅を出て二十分ほどたった時に道からずっと奥まったところに淡い黄土色の麦藁帽子がふわふわ浮いていたのを見ただけである。
時間がたつほどに緑は深くなり次第に抹茶色に近くなった。
坂道になり、
バスは登っていく。
七五三の飴を横に並べたような形の緑が百本以上谷にかけて広がり、
その向こうに緩やかにくねった道路が見えた。
道路を過ぎると緑は上向きに上り始めて登りきった所に、
茶色と灰色の細長い建物が立ち並んでいた。
人家というよりも、
何かの施設のように見える。
「次は学園前!
学園前!
お降りの方はボタンを押してください」
車内放送が流れるやいなや、
二郎叔父がボタンを押す。
煉瓦造りの柵が左側にあらわれ、
柵の向こうはみっしりと青々とした木々が並んでいる。
右側に広がる茶畑は夕日に照らされていた。
バスが塀と木々の隙間のような門の前で止まった。
バスが止まったのは駅を出発して初めてだった。