「君もクワイヤ(聖歌隊)に入りますか?
うちのクワイヤはとてもレベル高くて、
全国大会で優勝して世界大会に行ったこともあるんですよ」
私はさっき廊下を占領しながら笑いあっていた少年達のことを思い出した。
「い……いえ、
ぼ…ぼくはいいです」
「なんで?
君も入りなよ!
仲間といっしょに海外遠征いけたら楽しいじゃん!?」
声変わりしたばかりぐらいの若い声がした。
声の主は髪の短い、
日に焼けた生徒だった。
赤毛の少年がお爺さん先生に何か話しかけた。
「ロバートモ、
スグルト、
イッショ二レンシュウシタイトイッテイマス」
ロバートはエメラルドグリーンの瞳で
口元に微笑みを讃えながら、
私の目をじっと見つめた。
学校指定の鮮やかな緑と青のストライプのタイは
彼の為にデザインされたかのように決まっていた。
当時の私には
彼がヨーロッパのどこかの国の王子のように見えた。
私は頬を熱くして何か言わなければと思い
とっさにこう口走った。
「あ……アイラブクワイヤ!」
それなら当然君も聖歌隊員になりますね?
とにっこりするジョアン先生に私ははい、
と頷いた。
その後お爺さん先生、
ジョアン先生、
ロバート、
ケンイチに連れられて、
寮の部屋に行って荷物を置いた。
後は生徒の自治に任せましょう、
とお爺さん先生は寮長室へと向かって去った。
ジョアン先生はとなりの修道院へと帰って行った。
ロバート、
ケンイチが学食、
共同浴場に案内してくれた。
ロバートは高校生に見えたが私と同じ十二歳、
ケンイチは一学年上で十四歳だった。
私が○○先輩……
とケンイチに呼びかけると、
うちの学校では先輩後輩関係なく、
下の名前で呼び捨てで呼び合うんだ、
という。
夕飯をすませ、
共同浴場で髪を洗う時、
集団生活に慣れていない私はシャワーを勢いよく流しすぎて、
後ろの人に当ててしまった。
柔道部員のように体が大きくて怖そうな高校生の先輩ににらまれた。
彼が卒業するまで目をつけられ続けるかと恐怖に陥ったが、
そつなくケンイチがかばってくれた。