少し空けた窓から冷たい風が入ってきた。
ベッド下の格子でしきられた収納棚とスーツケースの間で私は両手を行ったり来たりさせていた。
頭の上にはベッドヘッド側に押し上げたマットレスが傘のようにかぶさっていた。
セーターとズボンとお土産の修道院産のお茶はスーツケースにつめ終わった。
私は文庫本を数冊手に取り考え込んだ。
本は一冊で十分じゃないの?
と後ろからケンイチの声がする。
ベットに横たえて片足の膝を折り曲げている。
龍の絵の表紙のペーパーバックの洋書をめくっている。
僕のうち遠いから五冊はないともたないんだよ、
私が答えると、
行きだけで五冊?
と聞く。
行き帰りの時間をつぶすには五冊は必要と答えると、
じゃあ二,三冊持っていって読み終わったのは実家に置いてきて、
帰りは実家の近くの本屋で買えばいい、
という。
入学してから三年がたっていた。
私はまもなく高等部生になろうとしていた。
ロバートは私が入学した年の一学期が終わると留学期間が終わり、
母国へと帰っていった。
それとともに私はケンイチと同室となった。
それ以来ケンイチが卒業するまでずっと同じ部屋だった。
通常学年ごとにルームメイトが変わるのに五年間彼と同じ部屋でいられたのはありがたかった。
私が電話で父にケンイチと仲がいいことを話すと、
父から教頭先生に話してそれで便宜をはかってくれたらしい。
私はスーツケースに厳選した三冊の文庫本を詰め込むと、
蓋をしめた。
膨れ上がったスーツケースの蓋に腰掛ながらチャックをしめる。
横になっていたスーツケースを縦にした。
持ち手をだしてスーツケースを引きずり、
ドアの前におく。