商店街のバスを降りる。
生垣に囲まれた庭に入る。
飛び石を渡って玄関にたどり着いた。
ケンイチをにこやかに歓迎する家族達の中、
母にだけ、
表情に曇りがあった。
二郎叔父に縁結びのお守りを渡した。
二郎叔父はああ!
叔父思いの甥っ子を持って僕はなんて幸せなんだろう!
と喜んでいるような怒ったような顔をした。
夜になり、
部屋に布団を敷き並べて二人で寝た。
私は眠れなかった。
しりとりでもしようと、
ケンイチに話しかけた。
ケンイチは静かに寝息をたてていた。
寝返りを何度も打っているうちに私の心中には小虎の姿が浮かんだ。
昼間小虎にした仕打ちが思い出された。
胸が苦しい。
もう横になっているのもつらくなってきた。
ケンイチを起さないようにそっと布団を抜け出す。
ふすまをおそるおそるわずかに開けた。
廊下にすべるようにでたところ、
あっと声をあげた。
まるで待っていたかのように母がそこにいた。
ガーゼの和服型の寝巻にピンクのちゃんちゃんこを羽織り、
こけしのように立っていた。
電球に照らされて母のけぶるような眉毛が見えた。
その下の子猫のような目は俯いていた。
「あのね」
下を向いていた丸い柔らかな目を持ち上げる。
語りかけるように私の目を見つめた。
「お昼間は、
お友達の前だったから言わなかったけど、
小虎君のママが亡くなったの」