高校二年生の八月の初めだった。
私はその日の夕方、
JRとローカル線の乗り換え駅まで出かけた。
直人さんお勧めの参考書が近くの本屋になかったので、
その駅の近くの大型書店に行ったのだ。
家へ向かう電車は珍しく混んでいた。
私はドアの近くの柱の横を陣取った。
参考書を早く見たくてたまらない。
本を本屋のビニール袋から取り出し、
夢中で読み出した。
電車が家の最寄駅より一つ前の駅に止まった。
邪魔だよ!
という低い声がして男が私を押しのけてホームに下りた。
手から本がつるりとすべり、
電車とホームの間に落ちた。
発車ベルがけたたましく鳴る中、
私はホームに落りた。
電車が行ってしまった後、
私はホームの下を覗き込んだ。
もう薄暗く良く見えない。
私は階段を昇った。
二つ並んだ改札は無人だった。
右の窓口の中では
半袖からでっぷりとした二の腕を見せた駅員がいた。
太った腕でけだるそうに、
なにかの帳簿をつけている。
私があのうと遠慮がちに口を開くと、
駅員は昼寝から起こされた猫のように顔を上げた。
私が線路に本を落としてしまったんですけど、
と訳を話すと、
自分で落としたものは自分で取れ、
とめんどくさそうにまた帳簿に視線を移した。
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