私は電話ボックスのガラス越しに
不機嫌そうな顔で立っている老紳士の姿を認めた。
慌てて、
電話ボックスを出る。
麦藁帽子に白いシャツに、
麻風のきなりの半ズボン姿の痩せた男だった。
君長いよ!
と私を睨んだ。
雲の上を歩いているような心地で人の行きかう商店街を通り抜ける。
家に戻った。
門先を掃除している若いお手伝いさんと、
山口さんの奥さんが立ち話をしていた。
「最近私、
鬼塚先生のことちょっと信じられない気がするのよ、
なんだか物ばっかり売りつけてくるし、
お弟子さんの男の子を虐待しているんじゃないかって疑っちゃうし、
でも随分前からお世話になっているから、
そう無碍にもう来なくていいなんて言えなくって」
自分の部屋に戻ると、
私は引き出しの中の小遣い箱を開けた。
全部で三万円あるのを確認すると財布に入れる。
お手伝いさんにあの、
ちょっと白砂町校の時の友達のとこに行ってくるから、
と言い家をでた。
商店街の電話ボックスに入り、
タクシーを呼んだ。