運転手は鼻歌を歌いだした。
いつか島のオバちゃんがススキ野原で歌ってくれたのと同じメロディーだった。
夏の海は明るい紺色で、
かもめが飛んでいた。
海には漁船がのどかに浮いていた。
遠くには白砂神社の杜も見える。
橋の先の島はこんもりと緑に盛り上がっていた。
島を覆いつくす木々が海に零れ落ちそうに茂っていた。
島は水面から傘の部分だけ頭を出した緑の巨大キノコのようだった。
盛り上がった緑の固まりが次第に大きくなっていく。
細かな集落の様子が見えてきた。
島に着くと郵便局やスーパーが立ち並び、
市街地だった。
どの建物も古びている。
看板は錆びているものが目立つ。
車は数台だった。
歩いているのはほとんどがお年寄りだ。
「じゃあ行くのは島の共同墓地かい?
お供えの花とか線香はここで買ってかないとお墓の近くにはないよ?」
私はあわてて、
いえ共同墓地ではないです、
この住所です、
と鬼塚霊術の屋号は言わずに、
町名と番地名だけ伝えた。
この辺りにお墓なんかないと思うけど……
と運転手は首をかしげた。
市街地の景色は一瞬にして消えた。
車は両道が緑に囲まれた道を登る。
左側は何処までも尽きないが如きうっそうとした緑で、
右の松の隙間からは海が透けて見える。
ばあやさんの息子さんの家の敷地内にお墓があるんです!
と私は必死で答えた。
嘘をついている罪悪感で心臓が震えていた。
罰から逃れるために必死に言い訳をする罪人になった気分だった。
そうかい……
と運転手は疑わしそうに、
眉をしかめた。
森の中に門が三軒ほど続いた、
一軒目と、
二軒目は普通の家で、
三軒目は寺だった。
先程まであんなによくしゃべっていた運転手がさっきから一言も口を利かない。
眉をしかめ口をゆがめている。
アスファルトにも緑の影が映る道を進み、
トンネルをくぐった。
トンネルを抜けると大分開けていた、
左にピーナツ畑があり、
右には集落があった。
「家の庭に墓つくるなんて、
変な家だな」
私がえ?
と聞き返すと運転手は何でもないただの独り言、
と返事した。
緑のトンネルを少し行った所だった。
杉並木に囲まれた青いトタン屋根の家があった。
一見廃家のように見えたが、
煙突から、
煙が昇っていた。