私は立ち上がるとモックウールの紺のコートを羽織った。
ボタンを嵌めると、
ボディバッグを手に取る。
階段を降りた。
母、
二郎叔父、
妹がこっちを一斉にみて、
出掛けるの?
と怪訝そうな顔をした。
スグルちゃん、
具合が悪いんじゃないの?
と心配そうな母に、
ちょっと友達に渡すものがあって……
すぐ戻るよ!
と作り笑いをした。
二郎叔父が、
その格好じゃ寒いよ!
とタータンの襟巻きとボアの耳あてのある帽子を渡してくれた。
マフラーをしめ、
帽子を被りブーツに足を入れた所で、
二郎叔父が忘れ物!
と手袋を投げてきた。
私は商店街のバス停まで行った。
バス停には延々と列が並び、
並んでいた人がコブシの花が落ちるように、
ぽとりぽとり、
と列から外れていった。
一人が私に言った。
バス来ないよ、
この雪だからなあ!
私は商店街に行くと、
電話ボックスに広告が貼られていたタクシー会社に電話をした。
受話器から聞こえてきたのは、
全然運転手つかまらないんです、
この雪でバスのお客が皆タクシーに乗りますから、
というすまなそうな声だった。