小虎は私を私が元来た道へと引っ張っていった。
小虎の歩みはしだいに速くなる。
橋を抜け、
昔の武士の子供の学問所の跡地を通る。
石段を降りる。
石段を通ったところでは竹の葉が風に吹かれざわざわと音を立てている。
石段の半ばで私は小虎に待ってくれるようにたのんだ。
息をぜいぜいさせた。
運動はあまり好きではなくて文学少年だった私にはここまで小虎のスピードについてくるのは結構きつかったのだ。
小虎はまるで走るように歩く。
この辺りはかつて私が正太や美登利にいじめられていたのを小虎に助けてもらった場所だった。
幼かった私がもう大学を受験する年になったというのに、
ここは何も変わらない。
私はざわざわと言う音を聞きながら、
小学生の頃、
毎日時が流れるのがあんまりゆっくりなので、
大人たちが言うように、
自分もいずれは近所のお兄さんのように中学生になるなんて嘘で、
永遠に小学生のままではないか?
と疑っていたことを思い出した。
そして今自分が十八歳だというのは妄想で
本当は自分はまだランドセルをしょった小学生なのではないかという
錯覚のような思いが頭をよぎった。
冷たい空気が喉に入り込む。
小虎が私の瞳をのぞきこみ、
やさしく手を引っ張った。
私はうなずくと、
歩き出した小虎に従った。
小虎に手を引かれるままにたどり着いたのは
家から歩いて十分の水産高校だった。
門で小虎が少し止まった。
小虎の口元から白い息が煙のように昇っていく。
小虎は私に顔を傾け、
けぶるような表情を見せる。
電灯の光に照らされた小虎の顔は際立って白く見えた。
小虎は私の手を握ったまま、
走り始めた。