「ハハハ、
この子は、
先生がほとんど神父さんか修道士さんのミッション系の学校に行っていたんですよ。
受験に関係ないからと全然勉強しなかった私と違って宗教の試験はいつも一番か二番でした。
聖歌隊にも入っていて随分と熱心に稽古していましたしね。
洗礼は受けてはいないもののほとんどクリスチャンみたいなものなんです」
父がこう言うと、
リクさんは
「そうですか、
じゃあ生まれ変わりの話なんて作り話としか思えないでしょうね」
私が慌てて、
そんなことありませんと言おうとするとリクさんは
「大変結構なことです。
こんな話、
本当にしない方がかえってよいのです。
私がこんなこと言うのも変ですけど、
キリスト教に入信されるのもいいことだと思いますよ。
そしてもう白砂様には二度とお参りするべきではありません。
この土地の人がありがたがっている変な土着の神様ぐらいに思えばいいのです。
あなたはどこか遠くに行ってしまうべきなんです。
白砂様もこの土地もまったく関係ない遠い世界に」
リクさんは私の目をじっと見つめた。
彼女の瞳は、
一点の迷いもなく自信に満ちていた。
「さあ、
スグルさん!
早く荷造りをなさい!」
「え!?」
リクさんが、
さっさと荷造りをして家を出て行くべきだと主張する。
何でもその「鬼」は一旦は追い払ったものの、
私がこの土地にいるかぎりまた戻ってくる可能性があるのだという。
「今日ですか!?
何も今日出ていかなくてもいいでしょう!」
「いいえ!
すぐにでも出ていくべきです!」
「でも下宿のアパートの契約は二週間後からだし……」
「東京にいらっしゃるご親戚の家に泊めてもらえばいいじゃないですか?」
「でも今日電話して今日泊めてもらえなんて相手の都合もあるし……」
「ご親戚の家が無理ならホテルとかあるじゃないですか!?」
「でも今まで猫が死ぬ以外特に何もなかったわけだし……」
「今までは、
たまたま他の誰かがあなたの身代わりになり、
あなたを守ってくれていただけなのです!」