私はもう一度男達の顔をまじまじと見て、
人間違えでないことを確認した。
思いきって口を開く、
「ケンイチ!
小虎兄ちゃん!
なんでここに?」
「スグル!?
やっぱりそうか!
やっぱりスグルだったんだ!」
十数年ぶりに見たケンイチは記憶より、
ずっと小柄で華奢だった。
思い出の中の彼は、
私より背が高かったのに、
いま隣に立つと明らかに私の方が目の位置が上だ。
「ずっとスグルじゃないかと思っていたんだけど、
苗字が竹中だからやっぱり違うかなって、
でもやっぱりスグルだったんだ!
でもなんで竹中なんだ?」
相変わらず爽やかなイケメン(当時はこんな言葉はなかったが)だった。
着ている物も、
片田舎では目立つであろう。
あかぬけている。
「本当にすごい偶然だな!
でもまあ、
虎に会ってからずっと不思議なことばかりだからたいして驚かないけど」
真っ白だった白目はすりガラスのように濁っていた。
声は弱弱しく、
かすれていた。
かつてまぶしく見えた、
小麦色の肌も、
今ではかえって不健康に見えた。
「それにしても、
虎!
お前ってやっぱりすごいな!
本当にスグルが改札口から出てきた」
ケンイチは今は小虎と一緒に、
自宅兼仕事場の島の家に住んでいるそうだ。
そこで、
三十分ぐらい前に、
ホームページの更新をしていると、
小虎が急に出かける準備を始めたという。
訳を聞くと、
スグル君がもうじき駅につくから迎えにいこう!
と言ったらしい。
約束は二日後の夜だったのに……
といぶかしくは思ったが、
小虎の今までのこういうことは結構あたっていた。
そこで、
車を走らせて、
駅にやってきたという。
「それで、
本当にお前が出てきて、
しかもあのスグルだし、
もう本当になんというか、
この世の中にこんなことってあるんだというか……」
私は妻をちらりと見た、
妻は不審そうな顔をしている。
小虎はまるでタイムマシンで十数年前からやってきたような姿で私の前で、
私の目の前に手を伸ばした。
風呂上りのようなつややかな顔で微笑みを浮かべ
私を見上げている。
ここまで澄んだ瞳はもうここ何年も見たことがなかった気がする。
スグル君お土産は?
と無邪気な男の子のように聞く。
妻が目を見開いて少し眉をしかめて、
私を見つめている。