そんなことを話しているうちにさっきからご機嫌で鼻歌を歌っていた小虎が大声でめでたいな!を絶唱しだした。
妻がびっくりした顔で私をじっと見上げている。
あまりに音が車内に響くので窓を開けた。
車内を冬の風が吹き抜ける。
窓一杯にススキ畑が広がり、
視界には他には何もない。
「めでたいな!
めでたいな!」
小虎の声がススキ野原を渡っていく。
「めでたいな!
めでたいな!」
朗々とした声が、
ススキの海に吸い込まれていく。
冷たい風が私の頬を洗う。
ススキの向こうから青々と茂る防風林が見えた。
林とススキは海風に吹かれ陸側に倒れている。
小虎は瞳をらんらんとさせて荒野を見つめている。
私は時折顔を輝かせ、
こちらを振り向く小虎を見つめてその美少年ぶりに感心した。
最近会社の女の子達が騒いでいる、
若手俳優なんか目じゃないほどだ。
昔から見た目は良い方だったけど、
ここまでだっただろうか?
そりゃあ良子おばさんに瓜二つなのだから、
美男子でないはずがないのだけれど……
と叫びまくる小虎の背中を眺めていた。
あるひらめきが沸き起こった。
「彼が変わったわけじゃない。
自分が若さのきらめきを失ったのだ。
美しくない者から美しい者はより一層まぶしく見えるのだ」
私は小虎に、
うんめでたいね、
いままで離れ離れになっていた友達がまた会えたんだから、
と笑いかけた。
妻が複雑そうな顔で私を眺めている。