この事はわたしにとって大分トラウマだったようだ。
受験勉強が厳しかった高校生の時分、
幾度も悪夢に悩まされた。
暗黒に忽然と浮かび上がった石段を一人きり、
頬を濡らしながら降りていく。
周りは真っ黒なのに石段だけは、
くっきりと白い。
それを照らすのは暗闇にたゆたう無数の人魂だ。
足元を見やれば子供のように華奢で、
白い足袋に草鞋を履いている。
逃げてきたのは底知れぬ恐ろしい世界からだった。
仲間をおいて自分だけ逃げてきた、
という罪悪感に駆られている。
祭りの直前になって稚児が逃げ帰ってしまい
宮司さん達は随分困ったそうだ。
ただあてはあったという。
白砂神社に二日と空けず、
お参りにくる母と少年がいた。
粗末な身なりだが、
人目を引く端正な容貌と、
上品さを持つ、
若い未亡人と男の子だった。