いつの間にか集まってきた少年達が
コートをキャッチボールのように
空にほおり投げている。
私は愛犬をきつく抱きしめて、
涙に霞む目で子供達の輪の中で飛び交うコートを眺めていた。
雲一つない高い空に
白いコートが旗のように舞うのは綺麗だった。
「スグルちゃん、ママのおっぱいのんで、お寝んねちまちょうね」
「スグルちゃんおしめかえまちょう」
少年達が甲高い声で喚いている。
お前、
今でもおむつしているって本当か?
と聞かれて、
我に返った。
嘘だよ!
と何度も反論したが、
やかましい声にかき消されてしまった。
ついに犬まで取り上げられてしまった私が泣き出すと、
みな蛙のように喉を鳴らして笑った。
一人の少年が石段の下の池に私の愛犬を落とそうとする。
私は大慌てでその少年に飛びかかった。
私は跳ね飛ばされて、
石段に打ち付けられた。
意地悪そうな、
クスクス声が響いた。
痛さをこらえながら、
立ち上がった時には、
犬はもう少年の手から離れていた。
犬は電池入れの見えるおなかを見せながら小さくなっていき、
最後に水しぶきが上がった。
私は三人の子供達に羽交い絞めにされ、
すぐ近くの公園に連行された。
殺されるのかと怯えていると、
ブランコに乗せられた。
背中を思い切り押される。
ブランコは地面と水平になるほど高く上った。
私はやめてちょうだいね!
やめてちょうだいね!
と悲鳴をあげながら助けを乞うた。
子供達は、
わざと赤ちゃんぽく作った声で、
私の真似をするばかりで、
ちっとも心を改める気はないようだった。
ブランコが地面に近づくと、
また三人揃って私の背中を押す。
世界が揺れる。
辺りが一瞬暗くなった。
私はブランコから振り落とされると思った。