ある午後、
私はお手伝いさんの、
「島のオバちゃん」と妹と一緒にお手玉をしていた。
本当の名前は鬼田シマさんといったが、
沖にある島出身なのと、
名前のシマからとって、
「島のオバちゃん」と呼んでいた。
祖母が女学生だった頃、
同じ年の彼女が家で女中さんをしていたというから、
もう七十代半ばだった。
二十歳でお嫁に行ってからは、
自分の子供を育てたり、
畑を耕したり、
よその家でお手伝いさんをしていたらしい。
最後の働き先として我が家を選んだのだった。
彼女は母がお気に入りだった。
母が祖母にきつい事を言われ、
落ち込んでいると、
若奥さん、
そんなぐじぐじすることないんですよ、
奥様は今でこそ、
あんなふうに気取っていらっしゃるけど、
女学校の頃のお裁縫の宿題は、
ほとんど私がやったんですから、
と母を慰める。
島のオバちゃんは、
ちりめんのはぎれに小豆を入れた俵型の、
お手玉を十何個も作ってくれた。
私が子供の頃よくやった遊びよ、
と手取り、
足取り遊び方を教えてくれる。
家遊びが好きだった私はよく習って、
大分うまかった。
その日も途中までは調子よくお手玉をしていたのだけれど、
ふと手元が狂って、
一つのお手玉が金魚ばちに落ちた。
しぶきが跳ね上がり、
デメキンが水の中で右往左往している。
お手玉はビニールの水草が植わった、
白い石の上に座っていた。
急に小虎の顔が思い浮かんだ。
私は、
ねえ小虎兄ちゃんはいつ元気になるの?
と島のオバちゃんのスモックをひっぱった。
オバちゃんは最初は、
何で小虎君のことをオバちゃんが知っているでしょう?
ねえさとみちゃん!
とのらりくらり、
妹の頬をつついていたが、
私がしつこく問いただすと、
そんなことオバちゃんは知りませんよ!
お母さんか二郎さんにお聞きなさい!
と顔を蒼白にし
体を震わせて、
怒ったような顔をした。
いつも優しい彼女の厳しい顔を見て、
私は急に胸にこみ上げるものを感じた。
折りしも母と二郎叔父が、
外出から帰ってきた声がした。
私は、
廊下を駆けて母と叔父に向かって、
小虎兄ちゃんいつ元気になるの!
また小虎兄ちゃんと遊びたいよ!
ママも叔父さんもそのうち!
そのうち!
いっつもそればっかりで、
ちっとも小虎兄ちゃんに会えないじゃないか!
と母と叔父に飛びかかった。