『小虎』第6章 祭りの後【フリー朗読(声劇)台本として利用可】

1人用声劇台本まとめページ

母がそのうちね!
そのうちよ!
と目を潤ませながらうわ言のように繰り返す。

二郎叔父が、
そんなことより、
お土産買ってきたよ!
とお菓子の包みを取り出す。

オバちゃんが、
猫と兎の指人形を両手に嵌めてスグル君、
私達と遊びましょう!
と私の前で手をゆらゆらさせる。

僕、
赤ちゃんじゃないよ!
とオバちゃんを睨むと、
足でくいを打ち込むように、
フローリングの床を踏みならした。

妹が泣き出した。

オバちゃんが妹を抱き上げた。

二郎叔父が冷たい表情で、
何も言わず部屋を出た。

車の音がするので外を見ると、
二郎叔父の車が門から出て行った。

妹の泣き叫ぶ声が私の胸をえぐった。

惨めな思いで母とオバちゃんに謝ろうとした。

母は茫然自失したように、
じゅうたんに膝をつき、
空気のぬけた風船のように座り込んだ。

オバちゃんは妹に、
よいこよいこ、
とあやしながら膝を伸ばしたり曲げたりしている。

私に背中を向けて、
あんなに大声だして怖いお兄ちゃんね、
とぼそっとつぶやいた。

私は飛び降り自殺でもする気分で、
庭に出た。

竹馬にまたがり、
敷石の上を、
ぴょんぴょんと渡った。

ずっと前に高い所から地面にうちつけられて、
今でも惰性ではね続ける毬になった気分だった。

竹馬が暴れだして、
自分が小虎のように水に落ちる妄想が広がった。

門の前にタクシーが止まって余所行きの着物の祖母が降りた。

祖母の後姿が玄関に消えた後、
少しして、
母の呼ぶ声がした。

居間に戻ると、
甘いシナモンの香りがただよい、
テーブルにはケーキの箱が置かれている。

花柄の皿とフォークも重ねて置かれていた。

妹はオバちゃんの腕の中で笑っていた。

オバちゃんが妹を子供用の椅子に腰掛けさせると、母と二人で、ケーキを取り出し、紅茶をいれた。皆で、おやつの時間となった。

二時間程すると、
自動車の音がまたする。

二郎叔父がプラスティックの籠を下げて帰ってきた。

籠をあけるとチワワの赤ちゃんが、
頼りなげな様子で這い出てくる。

イチゴの乗ったケーキのおかげで大分回復していた
私の心がさらに輝きだした。

私はその後、
半年間、
小虎のことを言い出さなかった。

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