とぼとぼと、
家まで頭を垂れて帰った。
玄関をよじのぼり、
廊下の先の電話の黒い受話器を震える手で取る。
覚えている限りの、
遊んだことのある男児に、
電話をかける。
女の子とは遊んじゃいけないんだ、
男の子と遊ばないと、
と思った。
数少ない同性の友達を必死で思い出した。
学区の違う幼馴染や、
二歳年上の従兄弟にかたっぱしから電話をする。
皆もうでかけたとか、
他の子と遊ぶ約束をしたからとのことだった。
遊びの約束は一向にとれない。
私は同じ通りの一つ年下の酒屋の息子、
正太に電話をした。
正太はいつか私の犬の動くぬいぐるみをよってたかって奪い、
池に落とした子である。
あの時は小虎に一喝されて、
逃げ帰った。
しばらくは私をいじめなかった。
まもなくそんな事も忘れたようで、
いつも私の事を、
青びょうたんと馬鹿にする。
機嫌が悪い時は私に拳骨を食らわす。
この前は私の大切にしていた電車模型を借りたきり返さなかった。
催促に行くと人にやった、
と平然としている。
私が泣いて責めると、
お前んち金持ちのくせにけちだな、
と平手打ちをされた。
叩き落とされ私は、
地面につっぷした。
大人に言ったら絞め殺すからな!
と私の手を踏みつける。
電話をかけたすべての少年に断られた私は、
この横暴な少年を思い出した時、
にわかに彼が大親友のように思えた。
指を穴につっこむ。
せわしくダイヤルを回す。
ダイヤルがのんびりと戻るのがもどかしい。
じりじりという音のあとに受話器を取る音がする。
聞こえてきた声は正太の高校生のお兄さんだった。
直人さんといって弟とはうってかわった大人しい優しい人だった。
「こんにちは、正太君いますか?」
「正太ならもうどこかに遊びにいっちゃったよ」
「じゃあ美登利ちゃんはいますか?」
もう女の子でもいいやと思った。
「美登利は剣道に行ったよ」
じゃあお兄さんは一緒に遊べますか、
と私がおずおずと尋ねると、
えっ!?
とびっくりした声が返ってきた。
「僕が君と遊ぶ?」
沈黙の後、
ごめん僕はこれから予備校だから、
と聞こえた。