翁(おきな)はクマソの武人の一人に近づくと、
「どうかあなたに嫁いだ、
わが娘だけは罰しないでください。
私はどうなってもかまいませんが、
あの娘(こ)は何も知らないのです。
あなたとあの娘(こ)の子供も母親がいなくては可哀想でしょう……」
クマソの男達がまた獣のように吼え始めた。
皆、
翁(おきな)を指差してわめいている。
しかし先ほど娘に対して飛ばしていた罵声とは違う種類のものに思われた。
と思っていると、
皆立ち上がり、
翁(おきな)の所にいっせいに集まってきた。
翁(おきな)に抱きついたり、
頬に口付けたり、
翁(おきな)の両手を自分の両手でぱああんと強くひっぱたいたりした。
刺青にうずもれた目を糸のように細くして、
髭の合間の分厚い唇の端を上げていた。
「あなたは英雄だ!」
「皆がやりたくても怖くてできなかったことをやりとげられたのだ!」
「こんなお義父さんをもって私は誇りに思います!」
豪快な笑い声が鳴り響いた。
手を打ち鳴らす音とめでたや! めでたや! という大合唱が次第に大きくなる。
「おれがああっ! おれがああっ!」
コウス様が床に押し付けられた手足を泳ぐようにばたつかせた。
私はコウス様の口に解いた帯を押し込むと抱きかかえるように、
コウス様をひきずって、
階段を降りた。
もとの所に戻るとまだ芸人達が輪になって嘆きあっていた。
「どうしようどうしよう」
「外国に出稼ぎにいこうか?」
「でもその国の人たちにいじめられないだろうか?」
「友達も親戚もいない所にいくなんて心細くていやだ!」
「しかしこの国で燻(くすぶ)っていてもらちが明かないじゃないか!」
私はマイヒコの肩をぽんとたたいて、
こう声をかけた。
「心配しなくてもいい、
仕事ならあるぞ」