あらすじ
昭和40年代、東京に住んでいた小学5年の少年勇太「通称ユタ」は父親が事故で亡くなったため、母親の故郷の東北の村に引っ越します。
転校してからヶ月たちますが、ユタは毎日学校でいねむりばかり。
自分でもその理由がわかりません。
毎日十分睡眠はとっているし、東京の学校では授業中居眠りなんかしたことはないのです。
それを母親が働いている温泉旅館でまき割りをしているおじさんに相談します。
おじさんの答えは「それは君に友達がいないからだ」というものでした。
確かにユタには新しい学校に友達らしい友達は一人もいません。
東京育ちの少年が2学年が同じ教室で勉強しているような田舎の小学校に転校して、なかなかなじめまないのはとうぜんかもしれません。
都会的なユタはみためも言葉遣いも違っていて、村の子供から浮いています。
おじさんは人間ではなくて座敷わらしの友達を作ったらどうかとユタに勧めます。
おじさんはユタに座敷わらしにあう方法を教えてくれます。
ユタはこわごわながらもそれを試してみます。
そして座敷童たちに出会い、友達になるのですか、やがて別れが待っていたのでした。
児童文学ということなっているけど、本当は大人向け??
ユタと不思議な仲間達は児童文学のくくりで出版されています。
ストーリーも小学生の男の子が田舎に引っ越して妖怪と遊ぶ……といういかにも児童向けの内容です。
対象年齢は主人公ユタ(小学5年生)より上の年齢ぐらいとされています。
ただ読んでみての感想は、実際は大人向けではないかというものです。
座敷わらしがでてくるまでの文章は非常に美しいのですが、これを味わえるのは大分大人になってからではないかと思います。
ユタと同じ年頃の子供がこの文章の美しさがわかると思えません。
おそらく冗長に感じられるだけだと思います。
また間引きという小学生にはショッキングすぎる話題が話の中核になっています。
この小説の全体的な傾向として、話の所々から暗い影がただよってきます。
ただ小学生にはそこまで読み取る力はないと思うのでそれほどショックを受けることはないかもしれません。
しかし裏の意味まで理解して味わうことができるので
小学生が自分と同じ年頃のユタが座敷わらしに会う話を読んだら表面的には面白いと思うけれど、そういう話をもとめているならもっと別にいい作品があると思います。
私はこの小説を教育的な目的で使うなら高校生ぐらいがよいのではないかと思います。
高校生ぐらいで、美しい文章や、この小説全体の暗い影について注釈付きでやっと理解できるのが高校生ぐらいではないかと思います。
さらっと読むとしたら大人向けだと思います。
この小説が大人向けになってしまった理由には、この小説に描かれる世界がすっかり昔のものになってしまったからだと思います。
ユタもこの村も大人にとってのノスタルジーです。
もちろん児童文学らしい安心間もあります
といってもやはり完全に大人向けでもありません。
まず全体的に子供向けらしい、素直な書き方です。
例えば、最後に「」の種明かしをちゃんとしてくれています。
大人向けだったらもっとぼかして察してよ、と言う感じに書くでしょう。
また座敷わらしはあくまでもユタにとって安全な存在です。
大人向けだったら、不幸な生まれの座敷わらしがユタに嫉妬するようになって傷つけようとする展開になるかもしれません。
また座敷わらしはユタに好意的でも、ユタが座敷わらしと仲良くなるあまり、向こうの世界に連れていかれて、元の世界に戻れなくなる、
なんていうことになるかもしれません。
そういうことは一切なく安心して読んでいられるというのもこの小説の児童文学らしい特徴です。
アイキャッチ画像はヴィダルさんによるイラストACからのイラストを利用しています。