二回だけ小虎に先客があったことがある。
その日私は無数のイチョウの葉がこびりついた
湿っぽい団地の入り口を通った。
古びたコンクリートの階段を上る。
ターコイズブルーのざらざらとした戸の前に立つ。
黄ばんだプラスティックにシールの剥がされた跡があるドアフォンの、
四角いボタンを押す。
ポーンという鈍い音がした。
はあい、
という良子の声がして、
ドアがカチャという音とともに開いた。
畳を歩いていくと、
半分開いた桜型の千代紙の張られた障子が見える。
その向こうに、
くりくり坊主の小虎が見えた。
手を合わせて置物のように、
正座をしている。
合掌した手が線香花火のようにぐらぐらと細かい振動を始める。
ゆれ幅がしだいに大きくなる。
しばらく眺めていると、
その頃流行っていたクラッカーという玩具のように大幅に揺れだした。
小虎の座布団の上にだけ震度7の地震が起きたかのようである。
ことら……
と声を出すと、
良子が、
中腰になった。
私の肩に左手をあてる。
人差し指を唇の前にあてて、
私を見つめた。