それから一週間ぐらい後、
私はまた小虎の家に遊びに行った。
足元にはダンボールが置かれていた。
ダンボールの蓋は開けられている。
中には柿の実がぎっしりと、
こぼれんばかりに詰まっていた。
奥から人の声が聞こえる。
赤ら顔の背が高く、
堅太りの男が仁王のように立っていた。
部屋着のような、
薄い灰色のジャージの上下だった。
年の頃は青年と中年の間ぐらいだった。
全体的に赤みがかった皮膚が油を塗ったように艶々としている。
絵本に載っていた赤鬼を思わせる。
ぎょろ目の上のげじげじ眉毛を吊り上げている。
「その言い方ねえだろ!
こっちは親切で言ってやっているのに!」
良子が柳眉を逆立て、
珍しく声を荒げている。
小虎を決して人には渡すまいとでもいう風に、
両腕で抱きしめていた。
「もう帰って下さい!
二度と来ないで下さい!」
大きな舌打ちの音がした。
大男は、
リブ編みから伸びた小山のような裸足の脚で、
古びた畳を踏みしめるように玄関にやって着た。
私は恐ろしくて体が凍りついた。
どけよ!
と怒声がした。
体が前に向かって跳ね飛ばさた。
弁慶の泣き所を玄関の角にぶつけたようだ。
痛さに顔をひきつらせていると、
物凄いドアの閉まる音がする。
背中を冷たい風がぶわりと襲った。
良子が縦長のタッパーを持って何も言わずに近づいて来る。
いつもなら優しい言葉をかけてくれる彼女が、
私など見えていないかのように脇を通り過ぎた。
大きな目の下にクマができていて、
眉間には深い皺がよっている。
唇は血の気が無い。
癖毛はほぼほつれていて、
銀のバレッタが今にも落ちそうに肩の辺りの毛束にしがみついていた。
私は雪女を目撃したような気分になった。
良子はドアを開けるとタッパーの中に大理石のように青白い二の腕をつっこんだ。
何かを握り締めながら腕をタッパーから出す。
手を高々と上げると、
細長い花弁の白い花のように良子の指が開いた。
白い粉が粉雪のように空を舞っている。
良子が白い粉上のものを、
踊り場に向かってばら撒いている。