『小虎』第13章 弟橘姫入水【フリー朗読(声劇)台本として利用可】

1人用声劇台本まとめページ

ぴかりと閃光が走り、
雷の音がした。

舞台の左袖から雷様の格好をした人が現れた。

青色の布を棒にまとわせた黒子もいた。

五人ほどの黒子は青い布を新体操のようにひらひらさせながら、
舞台の上を縦横に駆け巡った。

雷様は両手に電電太鼓を持ち、
それを振っている。

船の上の人達は一斉に体を丸を描くように動かし始めた。

まるで船に揺られているように見えた。

「や、やや」

「急に風が強くなって波が大きくなってきたようじゃ」

なあにこんな風すぐにやむ、
とヤマトタケルが強がりを言った時だった。

また雷鳴が轟き渡った。

船の上の人が一斉に床に倒れこんだ。

それと共に、
薄布を翻しながら美登利がダンボールの輿の影から現れた。

裳をふわりとさせながら、
ぺちゃんと船の床に膝をついた。

ヒメ!
と直人さんが叫びながら、
立ち上がると、
美登利に向かって這うように歩く。

怪我は無いか?
と美登利の手をいたわるように握る。

美登利はまた輿の影に隠れた。

間もなくざっぱーんという大きな波の音がした。

皆が横に倒れた。

その時また美登利も輿の中から倒れるように姿を見せた。

ええ役立たずの持衰《じさい》め!
ちっとも波風はやまないじゃないか?
とヤマトタケルが怒って持衰《じさい》を脚でどついた。

持衰《じさい》がだるまのように横に倒れた。

お付きが
「早く持衰(じさい)を海に投げ込みましょう!」
船の上の男達が持衰《じさい》を縛り上げると、
三人で船の外にめがけてぽいと蹴飛ばした。

持衰《じさい》が船の外に飛び出した。

黒子によって動かされる青い布が持衰(じさい)を巻き取った。

そのまま舞台の左袖へと消えていった。

1 2 3 4 5 6 7 8 9