神功皇后の男装
また皇后は海辺に行き、髪をといて、
もし霊験あるなら、髪よ、自然に分かれて二つになれ
と祈りながら、髪を海入れてすすぎました。
すると髪は自然に二つにわかれました。
そこで皇后は髪をそれぞれに結びみずらにしました。
つまり男性の髪型になったのです。
皇后は群臣にこう宣言しました。
今、征討軍を派遣しようとしている。
この事を群臣に託した。
もし事が成功しなかったら、罪は群臣にあることになる。
これでは、はなはだ心痛むことである。
私は婦女であり、そのうえ不肖の身である。
しかしながら、しばらく男性の姿となり、強いて雄大な計略を起こすことにしよう。
上は天神地祇の霊力をこうむり、下は群臣の助けによって軍団の志気を振るい起こし、けわしき波を渡り、船舶を整えて財宝の土地を求めよう。
もし事が成功すれば、群臣よ、共にそなたたちの功績となろう。
事が成就しなければ、罪は私一身にある。
どうか群臣よ、共に議せよ。
(宮澤 豊穂訳『日本書紀 全訳【上巻】』ほおずき書籍)
「もし成功すればそなたたちの功績。もし失敗したら罪は私にある」という謙虚で責任感のある言葉に群臣は感動したことでしょう。
群臣はこう言って皇后に従います。
皇后は天下のために、国家を安らかにはこぶ手立てを考えられました。
一方では、罪は臣下に及ばないとおっしゃっています。
この上は、謹んで詔を承りましょう。
(宮澤 豊穂訳『日本書紀 全訳【上巻】』ほおずき書籍)