最後にたどりついたのは、
戸から煙が十筋ぐらい立ち上る、
地面から直に建てられた、
細長い藁葺きの建物だった。
入れば土間になっている。
両端に五つづつ並んだ竈に向かって、
若い娘達がせっせと食事の支度をしている。
そこらじゅうに籠が置かれている。
籠には猪の頭や、
ついさっき屠(ほふ)ったばかりのようなウリボウ、
まだ生きているウサギ、
などが入っていた。
そこで若い娘達に指示をしている三十がらみの眉毛のつりあがった小生意気そうな女がいた。
彼女に出来上がった料理を、
大皿にもりつけるように命じられた。
しかし私はこれでも家に帰ればそこらいったいの族長の若君である。
そのような下働き、
それも女がやるようなことはまるでできない。
皿に盛り付けようと、
ひつからひしゃくで丸い肉団子をすくったとたん、
団子が、
ひしゃくからころころと零れ落ちた。
肉団子は床をまりのようにはぜている。
女に、
大切なご馳走を無駄にして! と怒鳴られ、
うなだれていた。
回りの女の子達のあざ笑いが聞こえる。
ふん、
こんな連中、
本当なら俺にあれこれ指図できる立場じゃないのに、
と悔しく思いながらも必死で謝る。
気を取り直して、
もりつけにとりかかると、
少しずつ慣れてきて、
途中からはなんとかできるようになった。
一仕事終わり、
ほっとしたので、
ふと向こうをみると、
コウス様の姿が見える。
猪の頭の周りに蕗の葉を器用に飾りながら、
高く澄んだ声で、
てきぱきと皆に指示をしていらっしゃる。
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