谷崎潤一郎『細雪』あらすじ

蒔岡本家東京へ行く

黄疸がなおりかけた幸子は本家の鶴子から思いがけないことを聞きます。

銀行員の鶴子の夫が東京丸の内支店長に栄転になったのです。

それを機に本家は一家をあげて東京に移住することになりました。

生まれてから37歳までずっと大阪で暮らしてきた鶴子にとっては東京移住は大ショック。

つらくて仕方ないのですが、周囲の人々は皆、栄転でおめでたいと言って、幸子の気持ちをわかってくれる人はいません。

鶴子はじめ四姉妹は皆、生まれ育った大阪ほどよいところはないと考えて、東京への憧れはありません。

鶴子は生まれ育った大阪を離れなければならないと思うと涙が出てしまいます。

今、蒔岡本家が住んでいる家は、一二代前の先祖が立てた純大阪式の中が薄暗い住居です。

鶴子以下の姉妹たちはもともとは皆船場の店の奥に住んでいたのですが、だいぶ成長してから後に住居と店を分ける当時の流行に合わせて、その家に移り住んだので、その家にすんでいたのはほんの短い期間でした。

しかしそこは父親が息を引き取った場所ですし、それなりに思い入れがあります。

鶴子に「今、引越しのための片づけをしている。その中に幸子の欲しいものがあるかもしれないから、一度見に来てほしい」と幸子に電話で話します。

行ってみると鶴子は土蔵のなかで呆然とした様子で働いていました。

ここで鶴子の人柄が書かれます。

鶴子は夫ともに傾きかけた家を建て直すために苦労したわけだけれど、一番旧時代の教育を受けたためか、性格は一番お嬢さん。

いつでも何か事件が起こると、最初にまず茫然としてしまって、放心したような状態になるが、暫くしてその期間がすぎると、今度はまるで神憑りになったように働き出す。

という人です。

今回の鶴子は引越しのための片づけが終わると、今度は名古屋の夫の親戚へのお礼状を数日かけて書きます(2,3日前に、名古屋で親戚周りをしてそのときご馳走をしてもらったので)。

たった1日の訪問のお礼状のために数日使っているわけです。

他にも鶴子は

「何せ姉ちゃんは、重役さんの家へ挨拶に行く時かて、二三日も前から口上の言葉を口の中で暗誦して、独りごとにまで云うぐらいやさかいな」

というようなところがあります。
本家の上京が差し迫ったある日、姉妹たちの父の妹「富永の叔母ちゃん」が訪ねてきます。

一度も芦屋の家に来たことのない彼女の訪問の目的は、雪子と妙子のことでした。

雪子と妙子はこれまで今まであまり本家にはおらず、芦屋の幸子の家にいりびたりだったわけですが、富永のおばちゃんは、これからはそうはいかないと言います。

富永の叔母ちゃんは雪子と妙子はもともと本家に属する人なのだから、鶴子たちと一緒に東京に行くべきだと主張します。

名古屋の旧家に生まれた辰雄にとっては雪子、妙子が本家についてこないで大阪に居残るというのは、世間体が悪く、兄としての体面を傷つけられることになるそうです。

辰雄の顔を立てるためにぜひとも雪子、妙子に本家と一緒に東京に行って欲しいと言うのでした。

富永のおばちゃんは妙子は人形制作の仕事があるからすぐには、というわけにはいかないだろうが、雪子は本家の人々とともに言ってほしい、と言います。

幸子が雪子に富永の叔母ちゃんが来たこと、本家と一緒に東京に言って欲しいことを雪子に話すと、雪子はあっさりと同意します。

雪子は富永のおばちゃんが来た翌日には本家に帰ります。

まもなく出立の日となります。

辰雄夫婦、14歳を頭に6人の子供、雪子の9人の家族、使用人2人、総勢11人で大阪駅を夜発の列車で出立します。

見送りはなんと100人近くで、先代のなじみの芸人、料理屋の女将、老妓なども混じっていました。

一家の出立から10日たった、9月の初めに鶴子から手紙が着ます。

手紙には東京での様子が書かれています。

一家は借りるつもりだった家が、家主の都合で急に借りられなくなり、辰雄の兄の家に居候していると言います。

大家族がいつまでもお世話になっている訳にもいかないので、新しい家を見つけたそうですが、狭い安普請のようです。

幸子は一家がどれだけ狭苦しい慌ただしい暮らしをしているのだろうと案じます。

雪子から便りはありませんでした。

鶴子のまだ幼い息子の秀雄が病気になった時に雪子は看護婦顔負けの看病をしたといいます。

雪子がいなくなってから、幸子の娘、悦子の様子がおかしくなります。

幸子は婚期を過ぎてまだ嫁にいけない雪子をなぐさめるために、雪子に悦子の世話をさせていました。

悦子も雪子に非常になついていたのですが、雪子がいなくなってからというものの、悦子が精神的におかしいのです。

最初は見過ごしていたのですが、あるとき、これはどうしてもおかしいと思った幸子はついに悦子を病院につれていきます。

医者に見せると神経衰弱とのことでした。

11月に貞之助が東京に行き、本家を訪れます。

貞之助は鶴子からこんなことを聞きます。

雪子が最近しばしば涙ぐむ、2階の4畳半にひきこもってしくしく泣いていることもあれば、時には人前で涙を流すことがあるといいます。

鶴子は雪子がそんなに東京が嫌なら、雪子は関西に戻ってもよいと思っているそうです。

幸子はもう東京に行ってから4か月もたったのだから、雪子を10日か半月ぐらいなら呼び戻してもよいのでは?と考えます。