谷崎潤一郎『細雪』あらすじ

雪子の縁談2  野村 兵庫県農林課の役人

話は前後しますが、蒔岡本家が東京に発つ前に雪子に縁談がきていました。

紹介者は幸子の女学校時代の同窓生、陣場夫人。

野村という男で、兵庫県農林課勤務の水産技師。

数年前に妻を亡くし、後妻を探しています。

幸子の同窓生の夫の恩人の関西電車社長、浜田の従兄弟です。

幸子からみてあまりよい縁談ではありません。

年齢が幸子の夫の貞之助よりも2つも上、初婚ではない。

それに写真を見たところ年齢より老けています。

あまり乗り気ではなかったので放っておいたのですが、正月が明けた頃に、陣場夫人からあれからどうか? という手紙が着ます。

幸子がそのことを鶴子に知らせると、それなら雪子を見合いを口実に関西に帰して、その後しばらく芦屋の家でゆっくりしていったらどうか? という返事でした。

陣場夫人の希望が見合いは節分前に、ということだったので、雪子にすぐにもどってくるように、と手紙をだしましたが、ほぼ入れ違いに鶴子から手紙が来ます。

なんでも鶴子の子供2人が流感になり、大騒ぎだそうです。

それを雪子が看護をしているといいます。

しかたなく見合いを延期してもらうことにしましたが、その間に見合い相手について調べた時、見合い相手の野村はひとりごとを言う癖があるということがわかります。

自分に向かって「あなたは野村さんですか?」というというたわいのないものですが、できればそういう人をわざわざ夫に選ぶことはないなどとも思います。

また見た目は老けていて50歳ぐらいにみえるのでおそらく雪子は気に入らないでしょう。

最初から断ることが決まっているような見合いでしたが、雪子を呼び戻す口実のためにとりあえず見合いしてみようということになりました。

3月3日のひな祭りの日に雪子は戻ってきます。

悦子は雪子を喜ばせるためにひな人形を飾ります。

見合いは3月8日となりますが、その直前の3月5日,有馬温泉に病気の友人を訪ねていったとき、幸子の具合が悪くなります。

後でわかったのは流産でした。

妊娠自体が意外でした。

なんとなくは気が付いていたのに、あの時あんな激しい動きをしたり、移動をしたりしないで大事にしていれば……と悔やんでも悔やみきれず幸子は涙を流します。

体調不良で3月8日の見合いは延期になり、3月15日にしてもらいます。

3月15日になっても幸子の体調は回復せず、出血がある中での見合いのつきそいとなります。

貞之助、幸子は陣場夫人が幸子の体調を知っているのに全く気遣わないことにイライラ。

見合い相手の野村は写真以上に老けていて、雪子と並ぶと親子に見えるほどです。

見合いの後、野村はごきげんで、雪子たちを自宅に招きます。

そこで野村は仏壇のある部屋まで彼らを案内し、先妻と亡くなった2人の子供の写真が飾ってある光景を雪子たちに見せます。

自宅の見晴らしの良さを自慢しますが、貞之助はこんな崖ギリギリの場所に立った家には自分だったら落ち着いて住めないと思います。

見合いの後幸子が雪子に感想を聞くと雪子は「それでも、あの人やったら、何でもあたしの云う通りになりゃはるやろうし、好きなことして暮らせるとは思うねんわ」とまるで結婚する気があるような答えをします。

そんなある日、雪子が妙子とともに神戸の街に遊びに行くと、雪子は野村に出くわします。

野村に一緒にお茶をしながらお話しませんか? と誘われて雪子は「あのう、あのう」と真っ赤な顔でへどもどしながら答えます。

幸子に口では結婚する気がある気のようなことを言ったものの、やはり野村とは結婚するのは嫌だったのでしょう。

雪子は妙子に「あの人とだけは結婚したくない」と言います。

見た目が老けすぎているというのも理由でしたが、もう一つの大きな理由が、見合いの後自宅に招かれたとき、仏壇に連れて行かれて、そこで先妻と子供の写真を見せられたことでした。

雪子としては見合い相手に先妻や子供の写真をわざわざ見せるなんて何事だろう、あれを見ただけでもとても女の繊細な心理などが理解できる人ではないだろう、と不愉快になったそうです。

幸子はこれは雪子から直接ではなくて雪子が妙子に話したのを妙子を通して聞いたのでした。

幸子は陣場夫人に縁談を断ります。

その後もしばらくは雪子は芦屋に滞在し、結局毎年恒例の花見をすましたのち、やっと東京に帰ったのでした。

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