小説『小虎』第4章 小虎(1)

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母は私の甘い顔立ちが自慢だった。

かわいい、
お人形さん、
と人から言われるたびに、
しきりに家族や親戚に嬉しそうに話した。

私は妹と同じく、
母の着せ替え人形だった。

昔のヨーロッパの少年のような格好をさせるのが
憧れだったらしい。

洋裁が得意な近所の人にイメージ画を渡して注文したり、
既製服を改造してもらったりした。

東京の従姉妹のお下がりは母の気に入るものが多かった。

プティガール、
アリスルームという子供服のブランドには私も妹も随分お世話になった。

ピンクの花柄フリルとかスカート、
レースといった明らかに女の子向けは
妹が着られるようになるまでしばらくとっておかれた。

それ以外は皆、
私に回された。

その年の私の誕生日は日曜日だった。

私はセーラー襟の白い揃いの上下に、
金ボタンの輝く白いピーコートを羽織っていた。

長いサテンリボンつきの水兵帽まで被っていた。

東京の私立小学校の制服の
紺の碇のマークが刺繍された白いソックスを履き、
黒い革のストラップの靴をせわしなく動かしている。

手に誕生日プレゼントの新しい玩具を握り締めている。

電池の入った犬のぬいぐるみだった。

首輪から伸びたリードの先についたボタンを押すと、
両足を互い違いに上げ下げする。

ただ本物の犬のように散歩させられるほど
うまくはできていなかった。

私は散々苦労して玄関マットから門まで犬を歩かせた。

犬が汚れるのを心配した私は、
犬を抱き上げる。

大通りを抜ける。

橋を渡った所の、
石段までたどり着いた。

古めかしい石段で
それは昔武士の子供の学問所まで登るためのものだったという。

学問所は後に町庁や図書館になったが、
父の若い頃に取り壊され、
今は石段のみが残っている。

石段の上は冬の乾いた空気のおかげで、
からりと清潔だった。

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