はじめに
夏目漱石は慶応3年(1867年)生まれ 、1916年(大正5年)没。
小説家として活躍したのは39歳の明治38年(1905年)から最晩年の大正5年(1916年)という比較的短い期間でした。
晩年の10年あまりの短い期間の間に病気と金銭問題に苦しみながら、次々と様々なタイプの傑作を生みだしました。
漱石の作品リストを見て、これがたった12年間の間に書かれたかと思うと、漱石のハードワーカーぶりや才能に改めて驚いてしまうことでしょう。
その作品は人生の問題に真剣に取り組んだ、胸に訴えかけるものが多いです。
また中年以降に小説の執筆を始めて、活動期間が短かったためでしょうか?
作品の完成度や人間心理の掘り下げ方は書かれたのが後になるにしたがって上がる一方。
(日本の近代小説の黎明期にあたるので、初期の作品は試行錯誤だったというのもあるかもしれません)
年代順に読んでいくと作品がどんどん進化していくのがわかるので面白いです。
初期作品
坊ちゃん
1906年発表
直情思考の若者が感情のほとばしるままに、悪い権力者と対決!
主人公「坊ちゃん」の単純さと威勢の良さが面白いユーモアに満ちた青春小説。
夏目漱石『坊ちゃん』あらすじ 感想
夢十夜
1908年発表
「こんな夢を見た」で始まる十篇の短編幻想小説集。
夏目漱石の活動期間はたった10年あまりだからでしょう。
この作品にはもう、晩年の作品にも共通するような漱石のエッセンスが詰め込まれています。
『夢十夜』 あらすじ 感想
前期三部作
三四郎
1908年発表。
大学に入学した三四郎の青春と恋。
名言、名場面がたくさんの美しい作品です。
『三四郎』あらすじ、要約、解説
それから
1909年発表
ブルジョアの家に生まれた代助は、大学卒業後数年たち、30歳になるのに職業につこうとしない高等遊民。
学生時代の親友でサラリーマンになって世間に揉まれている平岡とは境遇の違いのためか話が合いません。
そして彼が何より気になるのは平岡の妻、三千代。
病弱で不幸に取りつかれたかのような女性です。
毎日遊び暮らす無職のインテリ男代助と薄幸のヒロイン三千代の悲恋。
恋愛メインのロマンチックな小説です。
夏目漱石『それから』についてさらに詳しく
門
1910年-1911年発表
宗助はかつかつ生活のサラリーマン。
毎日判をおしたような代り映えのない生活を送っています。
そんな宗助と愛妻お米はまだ若いのに老夫婦のような静かな欲のない日々を過ごしていました。
のんびり、のほほん、金銭面ではトホホ、な二人の生活にちょっとした事件が起こります。
実は宗助とお米は道ならぬ恋の結果夫婦となったのでした。
そして二人の過去にまつわる男が偶然にも隣家の主人の弟の商売仲間で、まもなく隣家にやってくるというのです。
夏目漱石『門』感想 あらすじ 登場人物紹介
後期三部作
行人
1912年- 1913年発表
気難しくて悩みがちな長男一郎。(職業は学者)
兄よりは世俗的な性格の次男二郎。
そして何を考えているかわからない一郎の妻、直。
病院を舞台に人の生のはかなさを描いたり、兄嫁との道ならぬ恋が起きそうだったり、苦悩に満ちた人間の内面に迫ったり……
とさまざまなテーマを抱えていますが、不思議な統一感があります。
読み応えたっぷりの作品です。
夏目漱石『行人』感想 あらすじ 登場人物紹介
彼岸過ぎまで
大学を卒業したけれど進路の決まらないモラトリアムな若者の物語。
主人公が坊ちゃんに似た元気のよい若者で、序盤はワクワクします。
夏目漱石の作品のなかでは、ぱっとしないですが、次に書かれた傑作『こころ』につながる部分があります。
こころ
1914年発表
高校の教科書にも載っている、日本人なら誰でも知っている小説。
高校生の時に読んだけれどよくわからなかった、という方もぜひまた手に取ってみてください。
人生経験を積んだ後ではまた読み方も変わってくるでしょう。
胸にぐいぐいと迫ってくる青春の書!
夏目漱石『こころ』あらすじ 登場人物紹介
晩年の作品
道草
1915年発表
漱石最後の完結長編小説。
誰にも愛されないし、誰も愛さない。
近づいてくる人間は皆、金目当て。
シビアな現実を描いた大人の小説。
漱石の幼少期のトラウマやその後の人生の苦悩が反映されています。
これが漱石の亡くなる前年に書かれたと思うと切ないですね。
夏目漱石『道草』感想 あらすじ 登場人物紹介