夏目漱石『こころ』あらすじ 登場人物紹介
夏目漱石『こころ』は高校の教科書に載っている、日本人なら一度は目にしたことがある国民的名作!
繊細で的確な心理描写が胸に迫ります。
あらすじ
先生と私
若い学生の「私」は田舎から出てきて、東京で学問をしています。
ある夏休み、友達に誘われて鎌倉に遊びに行きました。
しかし友達は家庭の事情で田舎に帰ってしまい、私は鎌倉の海辺を一人で過ごします。
そこで海辺で西洋人をつれている男になぜか惹かれます。
その男に会いたくて毎日のように海辺に通い、しだいにその男と親しくなりました。
男と会話をするようになっての後、私は彼を「先生」と呼ぶようになりました。
「先生」は大学卒のインテリ男性で、その学識や思想は私にとってまぶしく思えました。
先生も東京に住んでいて、私は新学期が始まり東京に帰った後も、しばしば先生を訪ねます。
先生は無職で暇人なので、いつも私の相手をしてくれます。
私は先生と仲良くなりたくてたまりませんが、先生は私に対して距離をおいたような冷淡な態度です。
しかし先生は決して私が嫌いなわけではありませんでした。
自分に自信のない先生には若者にここまで慕われるのは重荷なのでした。
先生はこう思っているのです。
「自分は、君にそこまで想われるほどの人間ではない」
私は、先生への崇拝の思いを高めていきました。
大学の講義を聞くよりも先生と話していたほうが有意義な時間だと思うようにまでなります。
そんな私を先生は分析的でクールな目で見ています。
「君は今、のぼせているだけだ。きっといつか私から離れていくでしょう」
先生はどうしてそんなことを言うのでしょうか?、
また私が先生に、父親が不治の病に罹っていることを話すと、先生はこう言います。
「お父さんが元気なうちにもらうべき財産はもらっておかないと安心できませんよ」
先生は私が父親の遺産を無事に引き継げるかどうか心配しているのです。
私は先生の考え方は先生の過去の経験と関係しているのではないか、と思うようになります。
私は先生に先生の過去を教えてほしいと頼みました。
私の真剣な様子に心打たれた先生はこう言います。
話しましょう。
私の過去を残らず、あなたに話して上げましょう。
その代り……。いやそれは構わない。
しかし私の過去はあなたに取ってそれほど有益でないかも知れませんよ。
聞かない方が増ましかも知れませんよ。
それから、――今は話せないんだから、そのつもりでいて下さい。
適当の時機が来なくっちゃ話さないんだから
両親と私
大学を卒業した私は故郷に帰ります。
父親は相変わらず元気そうでしたが、自分がもう長くないことはわかっているようでした。
故郷に入ってくるニュースは前々から病気だった明治天皇の病状がよくないというもの。
病気の父親は明治天皇の病状が気になってしかたないようです。
私は故郷にいることにまもなく退屈してしまいます。
東京で教育を受けた私は、もう故郷や両親の保守的な空気の中ではいきいきと過ごせないのでした。
東京や先生のことばかり考えます。
そんなおりに明治天皇の崩御がありました。
さて私は大学を卒業したもののすぐに就職する気がありません。
資産家の息子なので経済的には困らないのですが、両親はやはり早く息子に就職してほしくて、せかします。
そしてこう言います。
「おまえがいつも言っている『先生』に紹介してもらえばいいじゃないか?」
私は無職で友達もあまりいなそうな先生が就職の紹介なんかできるはずはない、と思いました。
しかし両親に強要されてしかたなく、先生に手紙で就職の紹介をお願いしました。
先生からの返事を待っている間に父親の様態はどんどん悪くなり、とうとう危篤状態となります。
ついに兄、妹の夫(妹は遠くに住んでいて妊娠中で列車の旅は危険なため)もやってきます。
特に九州に住んでいてさらに仕事が忙しいため、滅多に帰ってこれない兄が来た、ということはよっぽどの事態でした。
まもなく父の臨終。
まさにそんな時に先生から分厚い手紙が届きます。
そこにはこう書かれています。
この手紙があなたの手に落ちる頃には、私はもうこの世にはいないでしょう。
私はそのまま家族には誰にも告げずに、手紙だけを残して、東京行の列車に飛び乗ります。
『こころ 中 両親と私』詳しいあらすじ
先生と遺書
危篤の父を置いて東京行の列車に飛び乗ってしまった私。
列車に揺られながら先生からの手紙を読みます。
そこには私が知りたくてたまらなかった先生の過去が書かれていました。
それは……
先生は新潟の資産家の息子として生まれました。
両親とも先生がまだ未成年の頃に亡くなります。
先生の叔父が先生の面倒を見ますが、その叔父が先生が東京で勉強をしている間に、本来先生の財産になるはずだった遺産を横取りしてしまいました。
叔父に財産を横取りされた経験が原因で先生は人間不信になりました。
しかしある軍人の未亡人の家に下宿したことをきっかけに、先生は明るさを取り戻します。
そしてその家には未亡人の一人娘も住んでいて、美少女でした。
先生は恋に落ちます。
そのお嬢さんに結婚を申し込もうか、どうしようか? と先生が迷っているときに、先生は友達を未亡人の下宿につれてきます。
彼は先生の幼馴染でKという修行僧のようなストイックな男でした。
Kは医者の養子でしたが、養親に医学を学んでいるという嘘をついて、自分のやりたい他の勉強をしていたのです。
数年は養親をだましていたのですが、ついに告白してしまい、養親の怒りを買い復籍(養子縁組を解除して実家に戻る)し、あげくの果て実家からも勘当されたのでした。
故郷からの経済的な援助がなくなったKはアルバイトをしてなんとかしのいでいたのですが、あまりにも厳しい生活のためかすっかり憔悴した様子。
先生は見るに見かねてKを自分の下宿先につれてきたのでした。
当初はKに明るさを取り戻してもらいたくて、先生はKを未亡人やお嬢さんと交流させるように仕向けます。
しかしある日、先生が家に帰ってくると、Kの部屋からお嬢さんの声がしました。
お嬢さんがKの部屋にいてKとおしゃべりをしているのです。
その時、家の中にはKとお嬢さんしかいませんでした。
また別の日には先生が散歩をしていると、Kとお嬢さんが一緒に歩いていました。
先生は次第にKに嫉妬心を抱くようになります。
そしてKもお嬢さんを愛しているのではないかと疑うようになりました。
そしてある日Kから「自分はお嬢さんが好きになってしまった!」という切ない恋心を告白されます。
Kにお嬢さんをとられたくない、そう思った先生は恋敵を撃退するため、自分のお嬢さんへの思いは一切に告げずに、Kにこう言います。
「君は自分の信じる道を進むために、養親をだまして、勘当にまでなったではないか? そんな君が今は、女にうつつをぬかして、道を捨てるつもりなのかい?」
先生にこんなことを言われてしまったKは、がっくりとうなだれます。
一時はKを撃退したと喜んだ先生ですが、また心配になってきます。
Kは自分の目的を果たすためならなんだってやる男です。
例えば養親をだまして自分のやりたい学問をやったように……
その彼が、お嬢さんとの恋に向かって突き進んだら、自分は負けてしまうかもしれません。
先生は自宅にKとお嬢さんがいない時を見計らって、未亡人に「お嬢さんをお嫁さんに下さい!」と結婚を申し込みました。
もともと先生を気に入っていた奥さんは承諾してくれました。
奥さんによるとお嬢さんも先生が好きだったようです。
晴れて恋愛成就! のはずでしたが、今度はKに自分とお嬢さんの結婚について知られたら、自分はKに軽蔑されるだろう……と恐ろしくなります。
なんせKにお嬢さんへの苦しい恋心を打ち明けられても、自分はお嬢さんへの思いを一切打ち明けずに、「君。堕落したね」みたいなことを言っていたのですから……
しかししばらくして、奥さんから、「もう私からKさんへ話しましたよ。Kさんたいへん驚いていらっしゃいましたよ」と聞かされます。
奥さんによると、奥さんから先生とお嬢さんの結婚について聞いた時のKの態度は非常に冷静でした。
ただ「おめでとうございます。私はお祝いをさしあげたいけどお金がないので難しいでしょう」と言ったとか。
そして奥さんによればKが奥さんからお嬢さんの結婚について知らせられたのは数日前だったのですが、Kの先生に対する態度は一切変わっていないのです。
先生は親友に裏切られたのにも関わらず平静なKを立派だと思い、恥ずかしさと罪の意識で一杯になります。
どうしよう……Kに謝ろうか……でもそんなことをはできない……
先生がそう思い悩みながら眠りについたその晩、Kは自ら命を絶ってしまったのでした。
遺書が残されていましたが、遺書には一切お嬢さんについて書かれていませんでした。
それからまもなく先生は大学を卒業し、お嬢さんと結婚しました。
『こころ 下 先生と遺書』詳しいあらすじ
登場人物
私
若い学生。
田舎から出てきて東京の学校に通っています。
卒業してもすぐに就職しても困らないほどの資産家の息子。
家族は父、母、兄(九州で働いている)、妹(他県に嫁いだ)
東京で学問するうちに、故郷や父母の保守的な気風に合わなくなりました。
精神的な青年。
先生
無職のインテリ男性
大学出 注)
もとは新潟の資産家の息子でしたが、まだ十代の時に両親が亡くなります。
叔父の世話で東京に遊学しますが、その間に保護者である叔父に父親の遺産を横取りされてしまいます。
しかしかろうじて残った遺産で夫婦二人で一生遊んで暮らしていけるだけの財産を持っています。
注)先生の大学生時代の明治中期、大学は日本で東京帝国大学ただ一つ!
大学の数が非常に少なかったため、「大学出」というと特別なインテリだったのです。
現代では大学になっている学校も、多くは専門学校等で大学ではありませんでした。
『坊っちゃん』の登場人物も坊ちゃんは物理学校出(現在の東京理科大学)、坊ちゃんのお兄さんは商業学校出(おそらく現在の一ツ橋大学)で大学出ではありませんね。
『坊っちゃん』の登場人物で赤シャツだけが大学出で、そのためか校長までもが赤シャツに頭があがらないようでした。
ちなみに「私」が大学生だった明治末期には大学はもう少し増えていて、東京だけでなく、京都、東北、九州にも帝国大学がありました。
奥さん (静)
先生の美人の奥さん。
先生と知り合ったのは先生がまだ大学生、奥さんが女学生の時でした。
先生の下宿先の軍人の未亡人の娘。
この小説で名前が出てくる唯一の人物。
父
「私」の父親。
不治の病に罹っている。
かなりの資産家のはずだがそんな雰囲気はまったくない。
いかにもな平凡な田舎のお爺さんでしばしば素朴さを見せる。
東京で学問をしているうちにすっかりインテリ都会人となった私にとって、父親はもはや自分とは別人種。
母
「私」の母親。
資産家の奥様のはずだが、そんな雰囲気はまったくなく、いかにも平凡な田舎のお婆さん。
兄
「私」の兄。
九州で働いている。
私とは仲の悪い兄弟だったが父の危篤を前に、私と心を開いて語り合います。
私からみると「動物的」な男。
無職の「先生」に惹かれる私とはだいぶ考え方も違い、たくさんお金を稼いでいたり、著名人でないと尊敬に値しないと考えているようです。
「その『先生』って何している人かい? 大学の先生……? えっ! 無職? なんでおまえそんな男を『先生、先生っ』て……うーん理解不能」
という感じです。
まあ実際的な人物、超常識人、と言えるのでしょう。
妹
他県に嫁いだ。
現在妊娠中。
妹婿
妹のお婿さん。
妹が妊娠中でまた妹は前回の妊娠の時は流産してしまったので、大事をとってお婿さんが代わりに危篤のお父さんのところに来たのでした。
作中では大人しそうな人ですが、義理のお父さんとお兄さんの前ですから大人しいのが当然かもしれません。
あまり彼の個性は見えてきません。
K
先生の幼馴染で先生と前後して東京に出てきて学校に通う。
のちに大学進学もする。
寺の息子だったが医者の家に養子になっている。
養親には医学を学んでいると嘘を言って学費を出してもらい、それで別の学問をする。
それがあきらかになり、養子縁組を解消されて、実家からも勘当される。
ふるさとから仕送りのない状態で苦学を続ける強靭な精神の持ち主。
先生からの経済的援助の申し出を断るなど、強情でストイック。
そんな修行僧のような彼が、下宿先のお嬢さんに恋をしてしまいます。
未亡人
先生とKの下宿先の奥さん。
日清戦争で亡くなった軍人の未亡人。
いかにも軍人の奥さんといった感じの気丈そうな人。
お嬢さん(静)
先生とKの下宿先のお嬢さん。
男勝りの母親とはタイプが違う、可愛らしい女性。
女学校に通っていますが、そんなにインテリではありません。
琴と活花を習っていますがあまり上手ではありません。
際立った才能や知性はない平凡な女性。
でも美少女で、無意識のうちに男性の気をひくような、駆け引きの手腕を持っています。
のちに先生と結婚して「奥さん」になります。
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