夏目漱石『それから』あらすじ

縁談が進む

季節が夏に向かいます。

相変わらず代助は毎日ぶらぶらしています。

暇なためか彼の持つ教養のためか感覚が鋭敏になりすぎてちょっと気分がおかしくなりそうです。

そんな時代助はこう思います。

良ややあって、これほど寐入ねいった自分の意識を強烈にするには、もう少し周囲の物をどうかしなければならぬと、思いながら、室の中をぐるぐる見廻した。

それから、又ぽかんとして壁を眺めた。

が、最後に、自分をこの薄弱な生活から救い得る方法は、ただ一つあると考えた。

そうして口の内で云った。

「やっぱり、三千代さんに逢わなくちゃ不可いかん」

平岡から新聞社への就職が決まったとの便りが届きます。

ある朝実家から迎えが来ます。

実家からよこされた人力車にのって実家につくと、代助は嫂と姪と一緒に歌舞伎座に行くように誘われます。

代助はその芝居はもう見たのですが、暇人ですからついていくことにしました。

最初は代助、嫂、姪と三人で芝居鑑賞をしていたのですが、後程兄もやってきます。
(当時の歌舞伎鑑賞はものすごい長時間だったのですね)

兄は見覚えのある男をつれてきていましたが、その男は若い女性を連れていました。

その若い女性は代助と縁談のある娘だったのです。

今日の芝居見物は最初から代助とこの娘を合わせることに目的があったのでしょう。

代助は兄や嫂がこんなことをするなら今後二人と疎遠にしないとならないな、などと考えます。

芝居見物は夜11時近くまで続き、代助は他の人たちと別れて、一人家に向かいました。

華やかな劇場と対照的な三千代のことが思い出され、そのほうが華やかな世界よりも自分の心情にぴったりくると思ったのでした。

ある日代助が散歩から帰ってくると家に甥の誠太郎がいました。

誠太郎は父(代助の兄の誠吾)に言われて代助を呼びに来たのでした。

「明日の十一時迄に来てくれ」といわれます。

代助は用事も言わずに一方的に来いなんてひどいじゃないか、と思い、誠太郎に「おじさんは旅行に出るつもりだから行かない、とお父さんに伝えてくれ」と言いつけます。

代助は兄の言う通りに実家に行けば花嫁候補に会うことになると感づいたのでしょうか?

誠太郎が帰り次第、すぐに旅行の準備を始めます。

その時はこんな切羽詰まったような心境でした。

庭を見ると、生垣の要目の頂に、まだ薄明るい日足がうろついていた。

代助は外を覗きながら、これから三十分のうちに行く先を極めようと考えた。

何でも都合のよさそうな時間に出る汽車に乗って、その汽車の持って行く所へ降りて、其所で明日まで暮らして、暮らしているうちに、又新らしい運命が、自分を攫いに来るのを待つ積りであった。

夕方に発とうという直前にふと気が変わります。

旅行はとりやめて三千代に会いに行きます。

平岡は留守でした。

三千代の指には代助が送った指輪がありません。

質にいれてしまったようです。

平岡の就職が決まったといえ、まだ借金が沢山あるのですから経済的に苦しいのでしょう。

代助は

指環を受取るなら、これを受取っても、同じ事でしょう。

紙の指環だと思って御貰いなさい

と持っているお金を数えもせずにごそっと三千代にあげてしまいます。

三千代の役に立てた、そういう思いからでしょうか? 代助は満ち足りた思いで、家に戻ります。

その夜は久しぶりに安らかな眠りにつくことができました。

翌朝目が覚めるともうすっかり日が高くなっています。

書生の門野に「お兄さんがいらっしゃいましたよ」と呼ばれます。

兄が代助を呼んだのはやはり縁談でした。

今日のお昼、家族で代助の花嫁候補の娘とその叔父と午餐をすることになっていたのです。

しかし誠太郎がもってきた答えが「代助が旅に出る」というものだったので、嫂はおろおろします。

しかし兄は代助の行動が遅いのを知っているので、「まだ旅に出ているはずはない、旅に出る前につかまえてやろう」とやってきたのでした。

代助は結局、午餐に出席します。

代助の父と花嫁候補の叔父の会話はあまり盛り上がらないのですが、誠吾が如才なくあたりさわりのない世間話をして、うまく場をつなげます。

縁談相手の令嬢は大人しい女性でした。

聞かれたら答えるだけで特に会話を広げようとする努力は見られません。

芝居も小説も興味がない、理由は外国人のピューリタンの女性の家庭教師の影響だといいます。

しかし「では英語は得意でしょう?」と聞かれると、いいえ、と答えます。

まちがっても才女とは言えませんが、鳶色の大きな瞳をした美少女です。

客が帰った後、父、兄、嫂、代助で花嫁候補とその叔父の批評をします。

父、兄、嫂は「あれなら結婚してもいいじゃないか」という結論を出します。

代助は「そうですな」と肯定とも否定とも取れない返事をします。

午餐の四日後代助は嫂と花嫁候補と叔父を送りに行きます。

二人を見送った後、代助はこのまま放っておけば縁談はどんどん進んでしまうだろうな、と思います。

代助はどうしようかと考えます。

代助は今まで散々家族がもってきた縁談を断っているのです。

また断ったら今度は愛想をつかされるか、父や兄の怒りを買うでしょう。

もし愛想をつかされるのならかまいませんが、怒りを買い、経済的援助を受けられなくなったら、今のような暮らしは続けられなくなります。

代助はこのときにはすでに三千代への恋心をはっきり意識していました。

もし馬鈴薯ポテトーが金剛石ダイヤモンドより大切になったら、人間はもう駄目であると、代助は平生から考えていた。

向後こうご父の怒に触れて、万一金銭上の関係が絶えるとすれば、彼は厭でも金剛石ダイヤモンドを放り出して、馬鈴薯ポテトーに噛かじり付かなければならない。

そうしてその償いには自然の愛が残るだけである。

その愛の対象は他人の細君であった。

代助は気が急いて好きな読書も楽しめない状況です。

発作的に家を飛び出し夜遊びをします。

代助は翌朝一度家に戻り、身なりを整えるとまた三千代を訪ねます。

三千代は代助からもらった指輪を取り戻していました。

先日代助があげたお金で取り戻したのでしょう。

三千代はまだ夫に、この前代助が金をくれたことを話していないようです。

代助は平岡夫婦が上京した時にすでに感じ取っていたのですが、彼らの関係は良好とはいえないものになっていました。

彼はこの結果の一部分を三千代の病気に帰した。

そうして、肉体上の関係が、夫の精神に反響を与えたものと断定した。

又その一部分を子供の死亡に帰した。

それから、他の一部分を平岡の遊蕩に帰した。

又他の一部分を会社員としての平岡の失敗に帰した。

最後に、残りの一部分を、平岡の放埒から生じた経済事状に帰した。

夫婦の愛情は途絶えていましたが、それよりもともかく今の三千代の一番困っていることは平岡がまともに生活費をいれないことでした。

そして三千代は北海道にいる父からもあまりよくはない便りを受け取っていました。

手紙には向うの思わしくない事や、物価の高くて活計くらしにくい事や、親類も縁者もなくて心細い事や、東京の方へ出たいが都合はつくまいかと云う事や、――凡て憐あわれな事ばかり書いてあった。

代助は叮嚀ていねいに手紙を巻き返して、三千代に渡した。

その時三千代は眼の中に涙を溜めていた。

「貴方は羨ましいのね」と青白い顔でさびしそうに言う三千代と向き合っているうちに代助は自分と三千代の間の愛を確信します。

はっきりと愛の言葉をお互いに交わすことはありませんでしたが、あと少しでそんなことを言ってしまいそうだ、という瀬戸際で代助は家を出ます。

そして家を出てから、先程もう自然の命ずるままにお互いに言いたいことをいえばよかったと後悔をします。

代助は、自分と三千代は、この前三千代を訪ねてお金をあげたときに恋人になっていたのだ、と思います。

そして代助は三千代のことをずっと過去にさかのぼって考えます。

そして代助はもう三千代が平岡に嫁ぐ前に二人は愛し合っていたことに気が付き愕然とするのでした。

代助は、平岡に三千代にちゃんと生活費を渡すように説得しよう、と思い平岡を訪ねます。

平岡の勤めている新聞社に行きます。

平岡と話すことができましたが、もし経済的なことを言ったら三千代に迷惑がかかる、という思いから、結局あまり意味のない会見となってしまいました。

代助は平岡の「家には帰ったり帰らなかったなり」「家にいたっておもしろくない」という言葉から夫婦の仲が冷め切っていることを伺い知ります。