夏目漱石『それから』あらすじ|夏目漱石のおすすめ小説|前期三部作

三千代からの借金の依頼

どうして引っ越し前のあわただしいときに来たのですか?と尋ねる三千代に三千代は顔を赤くしてこう言います。

「実は私少しお願いがあって上がったの」

三千代からのお願いとは借金でした。

それは引っ越しや東京での新生活のためのものではありませんでした。

それは京阪に置いてきた借金の一つをかたずけないとその後平岡の就職にもかかわってしまうのでというものでした。

借金の理由を聞いても三千代ははっきりとしたことは答えません。

三千代が病気をした時の費用でもないようです。

代助は園遊会に呼ばれてそれに参加します。

正賓は英国の国会議員で実業家の夫婦です。

社会的地位の高い父と兄をもつ代助はそんな会に出席する機会もあるのでした。

園遊会で兄に会った代助は、兄に三千代から頼まれたお金を借りようとします。

代助は若い頃芸者遊びをしすぎてその金を兄に頼ったことがあります。

そのとき兄はこころよく貸してくれて、一言も小言はありませんでした。

そんな兄だったので期待していたのですが、兄は断ります。

兄によればそんなときもほっとけばなんとかなるといいます。

兄が貸してくれそうもないので今度は平岡を兄の会社で使ってくれないかと頼みますが、

兄は

いや、そう云う人間は御免蒙こうむる。

のみならずこの不景気じゃ仕様がない

とすげない態度です。

代助は自分が平岡の連帯保証人になって借金を負ったら兄は金をくれるだろうか、などと考えます。

代助は平岡の家を訪ねます。

狭苦しい貧弱な家でした。

夜は柱の割れる音がして、戸には必ず節穴があり、襖には狂いがある。

そんな安普請です。

そんな家を代助が訪れて「まだ落ち着かないだろう」と尋ねると平岡は「落ち付く所か、此分じゃ生涯落ち着きそうもない」と言います。

そんな中三千代は亡くなった子供の着物をいじっています。

平岡は

まだ、そんなものを仕舞っといたのか。早く壊して雑巾にでもしてしまえ

と冷たく言い放ちます。

平岡はまだ仕事は見つかっていないとのこと。

お酒が回ってくると平岡と代助はまた、それぞれ働いている立場、働かない立場として議論します。

働いていない代助を批判する平岡に代助はこう反論します。

何故働かないって、そりゃ僕が悪いんじゃない。

つまり世の中が悪いのだ。

もっと、大袈裟おおげさに云うと、日本対西洋の関係が駄目だから働かないのだ。

第一、 日本程借金を拵こしらえて、貧乏震いをしている国はありゃしない。

この借金が君何時になったら返せると思うか。(中略)

こう西洋の圧迫を受けている国民は、頭に余裕がないから、碌な仕事は出来ない。

悉ことごとく切り詰めた教育で、そうして目の廻る程こき使われるから、揃って神経衰弱になっちまう。

話をして見給え大抵は馬鹿だから。

自分の事と、自分の今日の、只今の事より外に、何も考えてやしない。

考えられない程疲労しているんだから仕方がない。(後略)

というように自分が働かないのを社会のせいにする代助でした。

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