『坊ちゃん』の感想
男の子たちが元気!
「坊ちゃん」を読むと男の子たちのありあまるようなパワーを感じます。
まず赴任先の生徒たち。
今でいえば高校生ぐらいですが、元気ですよね。
新任教師にいたずらしたり、町で別の学校の同年代の学生とぶつかると、喧嘩になったり……
出くわしたたけで喧嘩になってしまうなんてオス猫の縄張り争いと同じですね……
また坊ちゃんが中身はやんちゃな男の子であり、まだ大人になりきっていないことは、この小説のテーマでもあるので、自明なことだと思います。
それに山嵐もまだまだ少年の心を失っていない男性です。
だから坊ちゃんと気が合ったのでしょう。
二人の友情の若々しさ、少年っぽさにちょっとくすりとなってしまいました。
いっぽう赤シャツ、野だいこ、うらなり君あたりはもう完全に大人。
この小説は超要約すれば二人の少年(の心をもった青年)が悪い大人をとっちめて、スカっとしておしまい、という話になります。
坊ちゃんとお婆さんたちの会話
この小説には二人のお婆さんが登場します。
一人は親兄弟に愛されなかった坊ちゃんを唯一可愛がってくれた女中の清。
もう一人は二度目の下宿先の士族の老婦人。
坊ちゃんと二人のお婆さんの会話が漫才みたいでおかしい。
清と
坊ちゃんが四国に行く前に清をたずね……
「何を見やげに買って来てやろう、何が欲しい」と聞いてみたら「越後えちごの笹飴ささあめが食べたい」と云った。
越後の笹飴なんて聞いた事もない。
第一方角が違う。「おれの行く田舎には笹飴はなさそうだ」と云って聞かしたら「そんなら、どっちの見当です」と聞き返した。
「西の方だよ」と云うと「箱根さきですか手前ですか」と問う。
随分持てあました。
士族の老婦人と
坊ちゃん「赤シャツと山嵐たあ、どっちがいい人ですかね」
老婦人「山嵐て何ぞなもし」
坊ちゃん「山嵐というのは堀田の事ですよ」
老婦人「そりゃ強い事は堀田さんの方が強そうじゃけれど、しかし赤シャツさんは学士さんじゃけれ、働きはある方かたぞな、もし。それから優しい事も赤シャツさんの方が優しいが、生徒の評判は堀田さんの方がええというぞなもし」
坊ちゃん「つまりどっちがいいんですかね」
老婦人「つまり月給の多い方が豪えらいのじゃろうがなもし」
坊ちゃんはユーモア小説としての性質が強い小説です。
とてもひとつひとつは取り上げられませんが、読んでいるとにやにやしてしまう箇所が沢山あります。
秀逸な描写
夏目漱石の作品の特徴といえますが、結構描写が細かいのです。
ストーリーとそれほど直接的に結びつかない詳細な描写がたくさんあり、それがこの小説の半分ぐらいを占めています。
しかしそれはこの記事での「あらすじ」ではほぼ飛ばしてしまっていますので、「坊ちゃん」を味わいたいなら、実際に読むしかないでしょう。
たとえば坊ちゃんが湯屋をでた後町をぶらぶらしていたら、赤シャツとマドンナのデート場面を目撃してしまう場面では、非常に細かく町の地理や夜の街の情景が描かれています。
うらなり君の送別会の酔っぱらいたちの乱れっぷりの描写も見事です。
坊ちゃんと山嵐が先勝祝いの出し物を見に行った時の町の賑わい、高知から来た踊りの描写も一読の価値あり。
ストーリーと直接結びつかない名場面が多く、映画化するのにとてもよさそうな小説です。
そしてその一見ストーリーと関係ない詳細な描写の中に、後の展開に大きくかかわるキーワードが紛れ込んでいるというパターンが多いです。